鎌田大地の2アシストは、期待値0.04のシュートが2本入って生まれた
9月12日、セルハースト・パークの14分。ペナルティエリアの手前で左からの球を受けた鎌田大地は、右から走り込んできたアナン・ハライリへ横に流した。ハライリはワントラップして右足を振り、わずかに当たって向きを変えた球がゴール左隅に入った。
75分には、冨安健洋の縦パスを受けてヨルゲン・ストランド・ラーセンへ通し、ラーセンがイッサ・ディオプを背負ったまま左隅へ流し込んだ。クリスタル・パレスは34分から10人で、試合は2-3で落とした。
ESPNの記録では、この2本のシュートの期待ゴールは、どちらも0.04だった。
「絶好調」と書かれたのは、結果の数字である
試合後の見出しは揃っていた。サッカーダイジェストは「絶好調の鎌田大地が圧巻2アシスト、公式戦3試合連続の得点関与」と打った。日刊スポーツは、プレミアリーグでは自身初の1試合2アシストだと書いている。
並んでいる事実に誤りはない。
| 日付 | 大会 | 相手 | 鎌田 |
|---|---|---|---|
| 9月5日 | プレミア第3節 | フラム(A、3-2○) | 89分・1アシスト |
| 9月8日 | カラバオ杯3回戦 | ミドルズブラ(H、3-0○) | 途中出場31分・1ゴール |
| 9月12日 | プレミア第4節 | イプスウィッチ(H、2-3●) | 84分・2アシスト |
FotMobの採点は8.1で、今季最高だった。リーグ4試合の平均は7.52になる。本人も試合後に「6番(ボランチ)だったり、10番(シャドー)だったり、2つのポジションをこなしていますけど、いいフィーリングで今はプレーができている」と話している。
結果の数字は、確かに上を向いている。
問題は、その結果が何から出ているかだ。そしてここには、当サイト自身が書いたことも含まれる。8月23日の記事で、筆者は「サージュのパレスは、鎌田が触る球の量をほぼ倍にした」と書いた。触る量が増えるから作る機会も増え、アシストがつく、という筋である。
アシストはついた。だが筋のほうは、4試合で崩れている。
触る量は、アシストが増えるほど減っていった
今季のリーグ4試合を、同じ提供元で並べる。
| エバートン(A) | マンC(H) | フラム(A) | イプスウィッチ(H) | |
|---|---|---|---|---|
| 鎌田の位置 | ボランチ | ボランチ | 右シャドー | 右シャドー |
| 出場 | 90分 | 90分 | 89分 | 84分 |
| タッチ | 88 | 50 | 36 | 26 |
| 期待アシスト(xA) | 0.15 | 0.02 | 0.01 | 0.05 |
| ビッグチャンス創出 | 1 | 0 | 1 | 0 |
| アシスト | 0 | 0 | 1 | 2 |
タッチは88から26まで、4試合続けて減っている。「触る球が倍になった」と言えたのは、開幕戦の1試合だけだった。
期待アシストは、出したパスの質から推定される「本来なら期待できたアシスト数」である。4試合で最も高かったのは0.15のエバートン戦で、その試合のアシストは0だった。2アシストのイプスウィッチ戦は0.05しかない。
4試合を足すと、期待アシストは0.23、アシストは3になる。
作る量が増えて結果が出たのではない。作る量が減っていく中で、結果だけが出た。
3本のシュートは、合わせても0.22だった
では、3つのアシストの先で何が起きていたのか。ESPNはシュート1本ごとに期待ゴール(xG)を出している。アシストのついた3本を抜き出す。
| 試合 | 分 | 決めた選手 | 形 | そのシュートのxG |
|---|---|---|---|---|
| フラム戦 | 77分 | ベン・チルウェル | ボレー | 0.14 |
| イプスウィッチ戦 | 14分 | アナン・ハライリ | エリア手前から右足 | 0.04 |
| イプスウィッチ戦 | 75分 | ストランド・ラーセン | 相手を背負って左隅 | 0.04 |
| 合計 | 0.22 |
xG 0.04は、同じ位置と状況から撃ったシュートがおよそ25本に1本しか入らない、という値である。それが1試合で2本とも入った。
合計0.22のシュートから、3点が生まれている。鎌田のアシストを押し上げたのは、パスの出し手ではなく、受け手が確率の低いシュートを決め続けたことだ。
念のため提供元を変えて確かめる。FotMobは鎌田の今季の期待アシストを0.35と出している。ESPNの0.23とは計算の仕方が違うが、どちらを採っても3には遠く届かない。
採点も、同じところで割れている
FotMobの8.1に対して、パレスのファンサイト The Eagles Beak の採点表は鎌田に6.7をつけていた。チーム最高は7.5のクインテン・ティンバーで、ハライリの7.1、クリス・リチャーズの6.8が鎌田より上に並ぶ。
ティンバーのこの試合は、タッチ71、デュエル勝利13である。鎌田の26と3とは、量がまるで違う。
アシストという結果を重く見る採点は鎌田を8.1にし、試合への関与の量を見る採点は6.7にした。フラム戦でも、FotMobの7.7に対して6をつけた媒体があった。2試合続けて、同じ理由で割れている。
10人だったことは、割り引いて読む
この試合のパレスは、34分にアクセル・ディサシが一発退場になり、残り56分を10人で戦っている。支配率は46%、チームの期待ゴールは0.62対1.67だった。26タッチの一部は、この状況の産物である。
サージュ監督は退場後に「3-5-1に組み直した」と話しており、イプスウィッチの地元紙EADTは「3-4-1-1」と書いている。退場後の鎌田が中盤の3枚にいたのか、1トップの下にいたのかは、公開データでは確定できない。
ただし、タッチの減少はこの試合から始まったものではない。88、50、36は、すべて11人で戦った試合の数字である。10人になったことは26という値を説明できても、4試合の流れを説明しない。
筆者の見立て
「絶好調」は、結果については正しい。中身については、まだ言えない。
4試合で3アシスト、公式戦3試合連続の得点関与、FotMob平均7.52。結果の数字として、これを否定する理由はない。
だが「サージュの下で作る量が増えた」は、成立していない。触る量は減り続け、期待アシストは4試合で0.23にとどまる。アシストのついた3本のシュートは合わせて0.22で、それが全部入った。
ここに昨季を並べると、奇妙な鏡像が見えてくる。当サイトが8月23日に書いたとおり、昨季の鎌田は期待アシスト3.24を積んで、アシストは0だった。提供元が違うため数字をそのまま並べることはしないが、向きははっきりしている。
昨季は、作ったのに決まらなかった。今季は、作っていないのに決まっている。
どちらの年も、アシストの数は鎌田の働きの量を映していない。昨季の0アシストを「通用していない証拠」と読むのが誤りだったのと同じ理由で、今季の3アシストを「作る量が増えた証拠」と読むのも誤りである。
そして、8月23日に筆者が立てた「触る量が倍になる」という読みは、4試合を経て、開幕戦1試合の読みだったと言わざるを得ない。
何を見れば答えが出るか
① 1試合の期待アシストが0.3を超える試合が出てくるか
今季の最高はエバートン戦の0.15である。0.3を超える試合が出てくれば、作る量そのものが上がり始めたと言える。出てこないまま結果だけが続くなら、アシストは受け手の出来に依存したままだ。
② アシストと期待アシストの差が、この先縮むか
今の差は3対0.23である。0.04のシュートが入り続けることは考えにくい。次の4試合でアシストが止まり、期待アシストが同じ水準にとどまるなら、この3つは確率の揺れだったことになる。
③ 11人で戦う試合で、タッチが50を超えるか
イプスウィッチ戦の26は10人の影響を受けている。11人の試合で50に戻れば、減少はフラム戦とこの試合の展開の産物だった。30台のままなら、シャドーの鎌田は触らない位置で仕上げに回る選手になっている。
このどれかが動いたとき、それが次の記事になる。
データについて
- 出典:タッチ・期待アシスト・ビッグチャンス創出・アシストはESPNの選手スタッツ(第1節 gameId 401879300、第2節 401879294、第3節 401879289、第4節 401879281)。4試合すべて同じ提供元で揃えている。シュートごとのxGは同じくESPNの試合ページのシュートデータ。採点はFotMob(選手ページ)と The Eagles Beak
- ESPNの選手スタッツは、ページの要約表示だと列がずれる(ある選手の値が隣の選手の行に入る)。本稿の数値は、ページに埋め込まれたデータを列名つきで直接読んで取った
- 期待アシストと、アシストのついたシュートのxGは同じものではない。イプスウィッチ戦の鎌田の期待アシストは0.05で、アシストのついた2本のxGの合計は0.08である。前者はパスを基準に、後者はシュートを基準に推定する。本稿では「作った量」を期待アシスト、「決めた側の難しさ」をシュートのxGで示し、両者を足し引きしていない
- 期待アシストの値は提供元で違う。今季4試合でESPNは0.23、FotMobは0.35。どちらを採っても結論は変わらないため、4試合を同じ提供元で揃えられるESPNを主に使った
- 昨季の期待アシスト3.24は Sofascore の値である(当サイト8月23日の記事)。今季のESPNの値とは提供元が違うため、同じ表に置かず、90分あたりの比較もしていない。本文で比べているのは向きだけである。8月23日の記事が開幕戦のタッチを90としているのも Sofascore の値で、本稿の88はESPNの値である
- xG 0.04を「25本に1本」と書いたのは、1÷0.04の換算である。個々のシュートの実際の難しさを保証するものではない
- The Eagles Beak の採点表は提供元を明記していない。WhoScoredの値は原典を開けなかったため使っていない
- カラバオ杯の1ゴールはリーグの表に入れていない。期待アシストと出場時間はリーグ4試合だけで数えている
- 退場後の布陣は、監督の会見(クラブ公式)と地元紙EADTで食い違う。本稿では確定させていない
- 本人のコメントは日刊スポーツの報道による。見出しの引用はサッカーダイジェスト。現地媒体の評は筆者の訳である。見立てと判定は筆者のものであり、クラブの発表でも予測モデルの出力でもない