鎌田大地に、今季はアシストがつく

クリスタル・パレスの金色のアウェイユニフォームで相手選手に対応する鎌田大地
2025年8月、フレドリクスタッド戦の鎌田大地。背番号18。 撮影 MichaelEmilio / CC BY 4.0(Wikimedia Commons)

28試合0ゴール0アシスト。

昨季の鎌田大地をこの数字だけで見れば、評価は決まってしまう。だが同じシーズンの、別の数字がある。

期待アシスト(xA)3.24。

作れていなかったのではない。 決まらなかっただけだ。

まず、昨季に彼が何をしていたか

2025-26シーズン、プレミアリーグでの記録である。

項目2025-26
出場28試合(22先発)/1,908分
ゴール・アシスト0・0
期待ゴール(xG)1.65
期待アシスト(xA)3.24
キーパス20本
ビッグチャンス創出5回

5回、決定機を作っている。 そのうち1つも得点にならなかった。

xAの3.24という値は、彼が出したパスの質から推定される「本来なら期待できたアシスト数」だ。3.24対0という差は、彼の側ではなく、その先で起きたことを示している。

ただしxAは推定値であって、実測ではない。 言えるのは「作った量に対して、結果が極端に少なかった」ところまでだ。

そして開幕戦でも、同じことが起きた。前半アディショナルタイム、鎌田の浮き球がムニョスに合い、ヘディングは枠を外れた。ビッグチャンス創出1、アシスト0。

「サージュになって鎌田が下がった」は、成立しない

開幕戦だけを見ると、鎌田はウォートンとほぼ同じ高さにいた。筆者もそこに変化を見た。だが38試合を並べると、そうではなかった。

昨季、2人が揃って先発した20試合で、平均ポジションの高さの差を取った。

値
鎌田がウォートンより高かった量(平均)+0.6
そのばらつき(標準偏差)5.5
最大+12.7(25年9月20日 ウェストハム戦)
最小−9.4(26年5月17日)
サージュ初戦−1.6
鎌田とウォートンの平均ポジションの高さの差の分布図。昨季20試合はマイナス9.4からプラス12.7まで散らばり、平均はプラス0.6。サージュ初戦のマイナス1.6は平均±標準偏差の帯の中に収まっている。
灰色が昨季20試合、緑がサージュ初戦。初戦は、昨季の標準的な範囲の中にある。図は筆者作成。

昨季の時点で、平均するとほぼ同じ高さだった。 試合ごとの振れ幅が5.5もあるので、初戦の−1.6はごく普通の範囲に収まる。

しかも季節を追うと逆の傾向が出る。昨季終盤の3試合(4月25日、5月17日、5月24日)で、鎌田はウォートンより 6.1・9.4・7.8 低い位置にいた。下がりきっていたのはグラスナー期の終わりであって、サージュの初戦ではない。

登録ポジションも同じ話をしている。昨季開幕当初の3先発、鎌田は3-4-2-1のシャドー(FW登録)だった。9月末からセントラルMFに変わり、以後ほぼ固定された。 役割の移動は、監督交代より11か月早く終わっている。

ただし、平均は「入れ替わり」を消す

ただし、この数字の限界ははっきりさせておきたい。

平均ポジションは、90分間を1点に潰した値である。 開幕戦での鎌田の縦位置は標準偏差17.1、範囲6〜76に散っていた。つまり2人が縦に入れ替わり続けても、入れ替わる量が同じなら平均は重なる。 平均差1.6は、ばらつき17〜18の10分の1以下だ。この指標は、入れ替わりを見るためのものではない。

筆者が前半を通して見た限り、2人は縦に入れ替わる場面を繰り返していた。 片方が3バックの近くまで降りて受け、もう片方が前に出る。そしてこの動きは、次章で見るサージュの設計と噛み合う。つないで前進するには、片方が降りて受け、もう片方が前で受ける必要がある。固定した横並びの2枚では、出口ができない。

ここは観察であって、数字ではない。 Sofascore の平均ポジションは前後半に分割できず、ヒートマップの点にも時刻がない。「何分に誰が前にいたか」は、公開データでは検証できない。

最終ラインも同じだった。3バックの中央CBが左右よりどれだけ深いか(段差)を昨季37試合で測ると、平均3.9、最大10.3。サージュ初戦の9.4は上から3番目に相当するが、範囲の外ではない。 ここでも「型が変わった」とは書けない。

変わったのは、蹴るか、つなぐかだった

位置では差が出ない。差が出たのは、ボールの動かし方だった。

グラスナー期38試合サージュ初戦
全パスに占めるロングの割合平均14.5%(9.2〜26.3%)5.5%
GKのパスに占めるロングの割合中央値60.0%(24.0〜92.5%)29.0%
ポゼッション45.9%58%
パス数392.6581

全パスに占めるロングの5.5%は、グラスナー期38試合のどの試合よりも低い。 最も少なかった試合でも9.2%だった。

GKの配球も、38試合中で29.0%を下回ったのは1試合しかない。

ロングボール比率の分布図。全パスに占めるロングの割合は、グラスナー期38試合が9.2%から26.3%に分布し、サージュ初戦の5.5%はその左外にある。GKのロング比率はグラスナー期が24.0%から92.5%に分布し、サージュ初戦は29.0%で分布の左端付近にある。
灰色の点が昨季38試合、緑がサージュ初戦。上段では、緑が灰色の帯の外にある。数値は Sofascore の公開値。図は筆者作成。

この数字には反論がある

パレスは0-2で負けていた。 追う展開では保持時間が増えるので、ポゼッション58%とパス581本には水増しが入っている。

だがGKのロング比率29.0%は、この説明では説明がつかない。 追いかけるチームのGKは、普通むしろ長く蹴りたくなる。数字は逆方向に振れている。 それでも1試合は1試合であり、断定はできない。

だから、鎌田の仕事量が倍になる

ここが本題だ。立ち位置が同じでも、通過するボールの本数が変われば、仕事は別物になる。

昨季(90分あたり)サージュ初戦
パス38.9本72本
タッチ54.490
パス成功率84.0%93.1%
鎌田の90分あたりの仕事量の比較。パスは昨季38.9本からサージュ初戦72本へ、タッチは54.4から90へ増えた。
棒の長さは90分あたりの数。立ち位置は変わっていないのに、扱う球だけが増えた。図は筆者作成。

パスは1.85倍、タッチは1.65倍。

グラスナーのパレスは中盤を飛ばしていた。だから鎌田がどこに立っていようと、彼を経由しない攻撃が一定量あった。サージュは経由する。 同じ場所にいる同じ選手が、倍の球を触る。

昨季すでに、彼は少ない球で5回の決定機を作っていた。 触る量が増えれば、作る機会も増える。

今季の鎌田は、こうなる

ここからは筆者の見立てである。

① アシストはつく

作る力は昨季すでに示していた(xA3.24、ビッグチャンス5)。足りなかったのは決める側で、触る量はこれから増える。0アシストが2年続く可能性は低い。

② ゴールは期待しない

xG1.65、シュート19本は90分あたり0.9本。撃つ位置にいない選手の数字だ。 得点者として見るべきではない。

③ 守備の負担は減らない

昨季タックル63本は90分あたり2.97本。低い位置の2枚は、前進の起点であると同時に守備の一枚でもある。攻守どちらの仕事も増える。

④ 最大のリスクは、そこにある

昨季は22先発のうち14試合で途中交代している。 90分立ち続けたのは8試合だけで、グラスナーは出場時間を明確に管理していた。30歳のシーズンで、倍の球を触りながらこれを続けられるか。 数字が伸びるかどうかより、ここのほうが不確かだ。

冨安がどう絡むか

結論から言えば、いまは「絡めるかどうか」の段階にある。

冨安健洋は8月7日、トライアル期間を経てパレスに加入した(クラブ公式発表、無償、背番号17)。公式リリースは彼を「サイドバックとセンターバックの両方でプレー可能」と書いている。

初戦では73分から出場した。3バックの左である。18分でタッチ29、パス20/25。686日ぶりのプレミアリーグだった。

噛み合わせは、悪くない

鎌田はピボットの左寄り、冨安は3バックの左で同じレーンにいる。 そしてサージュの型では左右のCBが押し上がり、中央が落ちる。左CBは、高い位置でボールを持つことになる。

蹴って前進するチームなら、左CBは長い球を送れば足りる。つないで前進するチームでは、そうはいかない。 前を向いた味方を探して差し込む必要がある。出し手としての質が、直接問われる場所だ。

その適性を示す数字はある。今夏のW杯である。

冨安・2026年W杯(3試合184分)
パス成功率87.2%(109/125)
ロングパス7/13(53.8%)
クリア14
決定機につながるミス0
平均評価7.27

87.2%は、高い位置で持つCBに求められる水準を満たしている。 ロングも半分以上通っている。大会での彼は、蹴ることも差し込むこともできていた。

だが、クラブでの2年が空白に近い

ここが本当の問題だ。

シーズン所属出場
2024-25アーセナルプレミアリーグ1試合(膝の2度目の手術でシーズン絶望)
2025-26アヤックス(後半期)リーグ7試合211分
アーセナルのトレーニングウェアを着て試合前に整列する冨安健洋
2023年10月、アーセナル時代の冨安健洋。彼のクラブでの写真は、ここでほぼ止まっている。撮影 Supporterhéninois / CC0(Wikimedia Commons)

2シーズンで、クラブでのリーグ戦は8試合。 しかもアヤックスでは3月のフェイエノールト戦で、自ら不調を訴えて73分に交代している。そこでまた離脱した。

W杯の3試合184分は良かった。だが184分は184分である。 前の記事で現地メディアが彼を「序列はかなり下」と評していたのは、能力の評価ではなくこの稼働実績への評価だった。トライアルを経ての加入という形も、同じことを示している。

そして、クラブはまだ市場にいる

決定的なのはここだ。冨安が加入したあとも、サージュはCBを探し続けている。

リアドが負傷する2日前、8月20日の時点で、サージュは「経験あるプレミアリーグのリーダー」を求めていると報じられていた。チェルシーのアクセル・ディサシとは交渉が持たれている。つまりクラブは、冨安の加入をもって最終ラインの補強が完了したとは考えていない。

そこにリアドの負傷が重なった。この試合で左膝を痛め、担架で運ばれている。 ピエール・サージュのコメントはこうだ。

「今のところ分からない。思っているより良い結果であることを願っている。医療検査を待つ」

診断は出ていない。 ただしリアドは過去2度の負傷で計430日を欠場しており、うち1度は十字靭帯だった。

ここに、冨安にとっての皮肉がある。

リアドの離脱は左CBの枠を空ける。 だが同時に、クラブが市場で動く理由も強める。 移籍市場は9月1日まで開いている。扉が開くのと、別の誰かがそこから入ってくるのは、同じ出来事の裏表だ。

結局、決めるのは彼の外側にある

つまり冨安が絡むかどうかを決めるのは、彼自身のプレーではない。 リアドの検査結果と、クラブが期限までに誰かを獲るかどうかである。鈴木彩艶のときと同じ構図で、能力の外側にある事情が先に答えを出してしまう。

なお、前の記事で立てた「冨安の縦パスが鎌田を解き放つ」という見立ては、まだ検証されていない。 2人が同時にピッチにいたのは18分、しかも0-2で追う展開だった。ただし、噛み合わせの理屈は崩れていない。必要とされる仕事は、そこにある。 あとは、立てるかどうかだ。

何を見れば答えが出るか

① 次節、セルハースト・パークでのマンチェスター・シティ戦

サージュの型が本物かどうかは、ここで出る。 シティは前から来る。それでもGKのロング比率が3割前後に収まるなら、初戦は相手都合ではなかったということだ。5割に戻れば、エバートン戦が例外だった。

② リアドの診断と、9月1日までのCB補強

冨安の出場機会は、ほぼこの2つで決まる。リアドが長期離脱し、かつクラブが誰も獲らなければ、冨安に出番が回る。 逆にディサシ級が入れば、枠が空いても順番は回ってこない。

③ 鎌田のパス本数が1試合60本を超え続けるか

昨季の90分あたりは38.9本。初戦は72本。この水準が続けば、仕事量が倍になったという読みは正しい。 40本台に戻れば、初戦は追う展開の産物だった。

④ 鎌田にアシストがつくか

本稿の見立てそのものである。シーズンを通して0アシストなら、この記事は外れだ。

このどれかが外れたとき、それが次の記事になる。


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