森保ジャパンに似ていたのは、鎌田がシャドーではなかった試合だ
9月5日、クレイヴン・コテージの77分。ペナルティエリアでこぼれた球に鎌田大地が反応し、流れた球をベン・チルウェルが左足で押し込んだ。2度追いつく展開から、クリスタル・パレスは今季初勝利を挙げた。
プレミアリーグ公式は、この得点のアシストを鎌田に記録している。
そして同じ90分で、彼がボールに触った回数は36だった。
まず、この試合の鎌田がどこに立っていたか
布陣は 3-4-2-1。鎌田は2シャドーの右で、相方はイェレミ・ピノ、1トップはエディ・エンケティアだった。ピボットはアダム・ウォートンとクインテン・ティンバー。開幕から2試合、彼が立っていたのはそのピボットのほうである。
前半には一度ネットを揺らしている。VARがオフサイドを取り、得点は消えた。54分には自陣で球を奪って右から左へ振り、そのサイドチェンジがタイリック・ミッチェルの同点弾につながった。こちらはアシストとして記録されていない。
採点は割れた。
| 媒体 | 採点 |
|---|---|
| FotMob | 7.7(今季3試合で最高) |
| We Are Palace | 7 |
| Roundtable Sports | 6 |
We Are Palace は「より前の位置で本当に効果的だった」「ウイングらしいスピードはないが、クレバーな動きでフラムを大いに悩ませた」と書いた。一方で Roundtable Sports は6をつけ、前半はやや消えていた、前に出た分ずっと流れてしまってパレスの前線に穴を空け、エンケティアとピノの進路にも入っていた、と書いている。後半は明らかに良くなった、とも付け加えている。
高評価は事実だが、全会一致ではない。そして低いほうの評価は、シャドーとしての立ち位置そのものを問題にしている。
ここまでは、試合後に流れた話と大きくは違わない。違うのは、その先だ。
「新監督だからシャドー」は、同じ監督の2試合で崩れる
今季のパレスは3試合を戦った。監督は3試合ともピエール・サージュ、布陣は3試合とも3-4-2-1である。
| 節 | 相手 | 結果 | 鎌田の位置 | FotMob |
|---|---|---|---|---|
| 第1節 | エバートン(A) | 0-2● | ダブルボランチ | 7.4 |
| 第2節 | マンチェスター・シティ(H) | 1-4● | ダブルボランチ | 6.8 |
| 第3節 | フラム(A) | 3-2○ | 右シャドー | 7.7 |
同じ監督が、同じ布陣で、2試合は彼をボランチに置いていた。
では第3節で何が変わったのか。移籍期限最終日にマルセイユから加入したクインテン・ティンバーが、この試合で初先発した。オランダ代表のセントラルMFで、移籍金は2000万ユーロ、契約は2031年までである。ピボットの2枚目が埋まり、鎌田を前に出す枠ができた。
つまり配置を動かしたのは監督の思想ではなく、補強である。戦術が日本代表に近いから彼が前に出たのではない。人が足りるようになったから前に出た。
そしてもうひとつ。ボランチで出たエバートン戦にも、FotMobは7.4をつけている。3試合しかない標本で、シャドーだから高いとは言えない。
では、森保ジャパンに似ていたのはどの試合か
言説の核心はここにある。サージュのパレスは、本当に森保ジャパンに近いのか。
比べられる数字がひとつある。ボールを持てた割合だ。
森保ジャパンがワールドカップのグループステージでチュニジアを4-0で下した試合、日本の支配率は62%、パスは592本で成功率88%だった。相手の枠内シュートは0である。持って、崩して、勝った試合だ。そしてこの試合の鎌田は、シャドーだった。
パレスの3試合を、同じ物差しで並べる。
| 支配率 | 成功パス | 鎌田の位置 | |
|---|---|---|---|
| 森保ジャパン/チュニジア戦 | 62% | 592本(88%) | シャドー |
| パレス/エバートン戦 | 58% | 494本(87%) | ボランチ |
| パレス/フラム戦 | 35% | 289本(78%) | シャドー |
| パレス/マンチェスター・シティ戦 | 28% | 234本(82%) | ボランチ |
森保ジャパンの62%に最も近いのは、58%のエバートン戦だ。その試合で鎌田はボランチにいて、パレスは0-2で負けている。
そして鎌田がシャドーに入り、今季最高の採点を得たフラム戦は35%である。日本代表の持ち方とは、正反対の90分だった。
サージュのパレスの支配率は、3試合で58%、28%、35%と動いている。このチームにはまだ「持つチーム」と呼べる形が無い。相手によって振れているだけだ。持ち方が定まっていないものを、日本代表の持ち方に近いとは言えない。
そして鎌田は、シャドーで「制御」していない
森保監督は、鎌田をシャドーに回した理由をこう説明している。
「我々のチーム作りの中で、彼は中心選手だったので、その意味でここのところはボランチで起用していましたが、今のチーム状況を考えたときにシャドーに回ってもらって良さを出してもらう。チームコントロールをシャドーの位置からしてもらうことを考えました」
日本代表におけるシャドー鎌田は、点を取る枚ではなく、前から試合を制御する枚である。役割の説明としては、We Are Palace の「クレバーな動きで悩ませた」と重なって見える。言説が説得力を持つのは、この一点においてだ。
だが、フラム戦の彼が試合を制御した形跡は、数字に無い。
| エバートン(ボランチ) | マンC(ボランチ) | フラム(シャドー) | |
|---|---|---|---|
| タッチ | 88 | 50 | 36 |
| 守備での関与 | 9 | 6 | 1 |
| デュエル勝利 | 6 | 9 | 1 |
| 期待アシスト(xA) | 0.15 | 0.02 | 0.01 |
| シュート | 0 | 1 | 0 |
| アシスト | 0 | 0 | 1 |
89分出場で36タッチ、守備での関与1、デュエル勝利1。制御という言葉から想像される数字ではない。
この試合の鎌田は、試合を握った選手ではなく、少ない接点を外さなかった選手である。
そして、ここに昨季との対比がある。昨季の彼は期待アシスト3.24を積んで、アシストは0だった。作ったのに、決まらなかった。この試合は期待アシスト0.01で、アシストが1ついた。作っていないのに、決まった。
同じ選手が、2年続けて期待値と結果を逆方向に外している。そのどちらも、戦術の話ではない。
「昨季はシャドーだと微妙だった」も、逆だった
言説には前提がある。昨季の鎌田はシャドーだと機能しなかった、という前提だ。調べると、これも成立しなかった。
昨季の鎌田は膝の負傷で8月11日から27日まで離脱し、開幕2試合に入っていない。復帰後の初先発は第3節アストン・ヴィラ戦で、そのときの立ち位置はシャドーだった。イスマイラ・サールと2シャドーを組み、1トップはジャン=フィリップ・マテタ。ウォートンとウィル・ヒューズがピボットに入る形である。
そのシャドー期に何が起きたか。
- 9月20日のウェストハム戦で、海外メディアが8点をつけている。「3つのチャンスを演出し、デュエルを11回制した。驚異的だ」「特に印象的だったのは、タックルやインターセプトといった守備面での貢献度の高さだ」
- クラブの月間MVPを9月・10月と連続で受賞した。9月にはプレミアリーグ月間MVPのノミネートにも入っている
では、彼がチームで最も低い評価を受けたのはいつか。
9月末、中盤に下りた直後のリヴァプール戦である。フットボール・インサイダーは彼に2点をつけ、「イングランドでの生活に適応するのに苦労していて、今日もその懸念すべき傾向が続き」と書いた。同じ試合をSquawkaは「優勢に見えた中盤の一角」と評しており、ここでも評価は割れている。それでも、チーム最低点が出たのはシャドーの時期ではない。
順序が逆になっている。昨季の鎌田は、シャドーで評価を上げ、中盤に下りてから叩かれた。
筆者の見立て
言説の5つの部品のうち、立っているのは1つだけだ。
| 見立て | 判定 |
|---|---|
| シャドーで起用された | ○ |
| 高い評価を得た | △(3媒体中1つは6) |
| 昨季はシャドーだと微妙だった | ×(シャドー期に月間MVP2連続) |
| 新監督だからシャドーになった | ×(同じ監督が2試合はボランチで起用) |
| その戦術が森保ジャパンに近い | ×(62%対35%。近いのはボランチだった58%の試合) |
残る1つ、「日本代表と同じく、彼を前から効かせようとしている」という役割の水準での相似は、否定できない。森保監督の言う「シャドーからのチームコントロール」と、We Are Palace の評は方向が同じだ。
だが、その相似はまだ数字になっていない。フラム戦の鎌田は、シャドーの位置から試合を制御してはいない。36タッチで決勝点に絡んだのであって、握って崩したのではない。
そして本人は、ボランチのほうがやりやすいと語っている。ワールドカップでのシャドー起用も、久保建英らの負傷を受けた組み替えだった。「日本では本来シャドーだから、パレスでも生きた」という順番も、事実に合わない。
筆者の見立ては、こうだ。この試合で起きたのは戦術の一致ではなく、人の充足と、少ない接点を外さなかった90分である。それは称賛に値するが、称賛の理由を取り違えると、次に外れる。
何を見れば答えが出るか
① 9月12日、イプスウィッチ戦で鎌田がシャドーに残るか
ティンバーが定着すれば残る。戻ればこの配置は1試合限りの都合であり、監督の思想ではなかったことになる。
② パレスの支配率が5割を超えた試合で、鎌田がシャドーに入るか
言説を本当に検証できるのは、この条件が揃ったときだけだ。持てる試合でシャドーの鎌田が60本以上触れば、初めて森保ジャパンとの比較が成立する。それまでこの言説は、当たりも外れも判定できない。
③ タッチ36、守備での関与1、デュエル勝利1が続くか
続くなら、シャドーの鎌田は制御役ではなく仕上げ役である。戻るなら、フラム戦は35%という展開の産物だった。
④ 期待アシストとアシストの乖離が、どちらへ振れるか
昨季は3.24対0、この試合は0.01対1。シーズンを通して並べたとき、彼のアシスト数が期待アシストの上に出るか下に出るかは、まだどちらとも言えない。
このどれかが外れたとき、それが次の記事になる。
データについて
- 出典:試合スタッツと鎌田の個人成績はESPN(第1節 gameId 401879300、第2節 401879294、第3節 401879289)。支配率・成功パス・タッチ・守備での関与・デュエル勝利・期待アシストは、3試合すべて同じ提供元で揃えている。採点はFotMob、We Are Palace、Roundtable Sports。日本代表チュニジア戦の支配率62%・592本・88%・被枠内0は日本語の分析媒体および報道による
- 「守備での関与」はESPNの defensive interventions の訳である。タックル・インターセプト・クリアなどの合算で、提供元ごとに定義が違う。他社のデュエル数と同じ表に置いてはいけない
- ESPNはこの試合の鎌田のシュートを0本と数えている。VARで取り消されたシュートが除かれているためで、幻のゴールは「シュート0・期待ゴール0.00」の中に含まれていない
- 昨季のシャドー期の範囲は、当サイトの前稿(Sofascoreの登録ポジション)に依拠している。fbref・Sofascoreは403、プレミアリーグ公式は本文を返さないため、1試合ごとの登録ポジションを本稿で独立に取り直せていない。ヴィラ戦については、現地の確定スタメン記事の並び(サール・マテタ・鎌田の3枚)から、サールと鎌田が2シャドーだと判断している
- チュニジア戦の開催日は媒体で割れている(6月20日とするものと6月24日とするものがある)。確認が取れなかったため、本文では日付を書いていない。またこの試合の鎌田は左シャドー、フラム戦は右シャドーである
- 今季のパレスは3試合しかない。58%・28%・35%は傾向ではなく、3つの点である。「持つチームの形が無い」は、この3点から言えることに限られる
- 前稿でマンチェスター・シティ戦の鎌田をFotMob 6.9と書いたが、同社の選手ページは現在6.8を表示している。採点は事後に動く
- 森保監督の発言は日本語媒体の報じたまま、現地媒体の評は筆者の訳である。判定表と見立ては筆者のものであり、クラブの発表でも予測モデルの出力でもない