森保ジャパンに似ていたのは、鎌田がシャドーではなかった試合だ

クリスタル・パレスのユニフォームでボールを運ぶ鎌田大地
2025年8月、フレドリクスタッド戦でボールを持つ鎌田大地。 撮影 MichaelEmilio / CC BY 4.0(Wikimedia Commons)

9月5日、クレイヴン・コテージの77分。ペナルティエリアでこぼれた球に鎌田大地が反応し、流れた球をベン・チルウェルが左足で押し込んだ。2度追いつく展開から、クリスタル・パレスは今季初勝利を挙げた。

プレミアリーグ公式は、この得点のアシストを鎌田に記録している。

そして同じ90分で、彼がボールに触った回数は36だった。

まず、この試合の鎌田がどこに立っていたか

布陣は 3-4-2-1。鎌田は2シャドーの右で、相方はイェレミ・ピノ、1トップはエディ・エンケティアだった。ピボットはアダム・ウォートンとクインテン・ティンバー。開幕から2試合、彼が立っていたのはそのピボットのほうである。

前半には一度ネットを揺らしている。VARがオフサイドを取り、得点は消えた。54分には自陣で球を奪って右から左へ振り、そのサイドチェンジがタイリック・ミッチェルの同点弾につながった。こちらはアシストとして記録されていない。

採点は割れた。

媒体採点
FotMob7.7(今季3試合で最高)
We Are Palace7
Roundtable Sports6

We Are Palace は「より前の位置で本当に効果的だった」「ウイングらしいスピードはないが、クレバーな動きでフラムを大いに悩ませた」と書いた。一方で Roundtable Sports は6をつけ、前半はやや消えていた、前に出た分ずっと流れてしまってパレスの前線に穴を空け、エンケティアとピノの進路にも入っていた、と書いている。後半は明らかに良くなった、とも付け加えている。

高評価は事実だが、全会一致ではない。そして低いほうの評価は、シャドーとしての立ち位置そのものを問題にしている。

ここまでは、試合後に流れた話と大きくは違わない。違うのは、その先だ。

「新監督だからシャドー」は、同じ監督の2試合で崩れる

今季のパレスは3試合を戦った。監督は3試合ともピエール・サージュ、布陣は3試合とも3-4-2-1である。

節相手結果鎌田の位置FotMob
第1節エバートン(A)0-2●ダブルボランチ7.4
第2節マンチェスター・シティ(H)1-4●ダブルボランチ6.8
第3節フラム(A)3-2○右シャドー7.7

同じ監督が、同じ布陣で、2試合は彼をボランチに置いていた。

では第3節で何が変わったのか。移籍期限最終日にマルセイユから加入したクインテン・ティンバーが、この試合で初先発した。オランダ代表のセントラルMFで、移籍金は2000万ユーロ、契約は2031年までである。ピボットの2枚目が埋まり、鎌田を前に出す枠ができた。

つまり配置を動かしたのは監督の思想ではなく、補強である。戦術が日本代表に近いから彼が前に出たのではない。人が足りるようになったから前に出た。

そしてもうひとつ。ボランチで出たエバートン戦にも、FotMobは7.4をつけている。3試合しかない標本で、シャドーだから高いとは言えない。

では、森保ジャパンに似ていたのはどの試合か

言説の核心はここにある。サージュのパレスは、本当に森保ジャパンに近いのか。

比べられる数字がひとつある。ボールを持てた割合だ。

森保ジャパンがワールドカップのグループステージでチュニジアを4-0で下した試合、日本の支配率は62%、パスは592本で成功率88%だった。相手の枠内シュートは0である。持って、崩して、勝った試合だ。そしてこの試合の鎌田は、シャドーだった。

パレスの3試合を、同じ物差しで並べる。

支配率成功パス鎌田の位置
森保ジャパン/チュニジア戦62%592本(88%)シャドー
パレス/エバートン戦58%494本(87%)ボランチ
パレス/フラム戦35%289本(78%)シャドー
パレス/マンチェスター・シティ戦28%234本(82%)ボランチ
鎌田がシャドーだった試合は、森保ジャパンのチュニジア戦が62%、パレスのフラム戦が35%で大きく離れている。鎌田がボランチだった試合は、パレスのエバートン戦が58%でチュニジア戦に近く、マンチェスター・シティ戦が28%だった。
破線は森保ジャパンの62%。近いのは、シャドーのフラム戦ではなくボランチのエバートン戦である。数値はESPN。図は筆者作成。

森保ジャパンの62%に最も近いのは、58%のエバートン戦だ。その試合で鎌田はボランチにいて、パレスは0-2で負けている。

そして鎌田がシャドーに入り、今季最高の採点を得たフラム戦は35%である。日本代表の持ち方とは、正反対の90分だった。

サージュのパレスの支配率は、3試合で58%、28%、35%と動いている。このチームにはまだ「持つチーム」と呼べる形が無い。相手によって振れているだけだ。持ち方が定まっていないものを、日本代表の持ち方に近いとは言えない。

そして鎌田は、シャドーで「制御」していない

森保監督は、鎌田をシャドーに回した理由をこう説明している。

「我々のチーム作りの中で、彼は中心選手だったので、その意味でここのところはボランチで起用していましたが、今のチーム状況を考えたときにシャドーに回ってもらって良さを出してもらう。チームコントロールをシャドーの位置からしてもらうことを考えました」

日本代表におけるシャドー鎌田は、点を取る枚ではなく、前から試合を制御する枚である。役割の説明としては、We Are Palace の「クレバーな動きで悩ませた」と重なって見える。言説が説得力を持つのは、この一点においてだ。

だが、フラム戦の彼が試合を制御した形跡は、数字に無い。

エバートン(ボランチ)マンC(ボランチ)フラム(シャドー)
タッチ885036
守備での関与961
デュエル勝利691
期待アシスト(xA)0.150.020.01
シュート010
アシスト001
鎌田のタッチはエバートン戦88、マンチェスター・シティ戦50、フラム戦36。守備での関与はそれぞれ9、6、1。デュエル勝利は6、9、1。シャドーで出たフラム戦は3項目すべてで最も少ない。
緑がシャドーで出たフラム戦。3項目とも、今季最少である。数値はESPN。図は筆者作成。

89分出場で36タッチ、守備での関与1、デュエル勝利1。制御という言葉から想像される数字ではない。

この試合の鎌田は、試合を握った選手ではなく、少ない接点を外さなかった選手である。

そして、ここに昨季との対比がある。昨季の彼は期待アシスト3.24を積んで、アシストは0だった。作ったのに、決まらなかった。この試合は期待アシスト0.01で、アシストが1ついた。作っていないのに、決まった。

同じ選手が、2年続けて期待値と結果を逆方向に外している。そのどちらも、戦術の話ではない。

「昨季はシャドーだと微妙だった」も、逆だった

言説には前提がある。昨季の鎌田はシャドーだと機能しなかった、という前提だ。調べると、これも成立しなかった。

昨季の鎌田は膝の負傷で8月11日から27日まで離脱し、開幕2試合に入っていない。復帰後の初先発は第3節アストン・ヴィラ戦で、そのときの立ち位置はシャドーだった。イスマイラ・サールと2シャドーを組み、1トップはジャン=フィリップ・マテタ。ウォートンとウィル・ヒューズがピボットに入る形である。

そのシャドー期に何が起きたか。

では、彼がチームで最も低い評価を受けたのはいつか。

9月末、中盤に下りた直後のリヴァプール戦である。フットボール・インサイダーは彼に2点をつけ、「イングランドでの生活に適応するのに苦労していて、今日もその懸念すべき傾向が続き」と書いた。同じ試合をSquawkaは「優勢に見えた中盤の一角」と評しており、ここでも評価は割れている。それでも、チーム最低点が出たのはシャドーの時期ではない。

順序が逆になっている。昨季の鎌田は、シャドーで評価を上げ、中盤に下りてから叩かれた。

筆者の見立て

言説の5つの部品のうち、立っているのは1つだけだ。

見立て判定
シャドーで起用された○
高い評価を得た△(3媒体中1つは6)
昨季はシャドーだと微妙だった×(シャドー期に月間MVP2連続)
新監督だからシャドーになった×(同じ監督が2試合はボランチで起用)
その戦術が森保ジャパンに近い×(62%対35%。近いのはボランチだった58%の試合)

残る1つ、「日本代表と同じく、彼を前から効かせようとしている」という役割の水準での相似は、否定できない。森保監督の言う「シャドーからのチームコントロール」と、We Are Palace の評は方向が同じだ。

だが、その相似はまだ数字になっていない。フラム戦の鎌田は、シャドーの位置から試合を制御してはいない。36タッチで決勝点に絡んだのであって、握って崩したのではない。

そして本人は、ボランチのほうがやりやすいと語っている。ワールドカップでのシャドー起用も、久保建英らの負傷を受けた組み替えだった。「日本では本来シャドーだから、パレスでも生きた」という順番も、事実に合わない。

筆者の見立ては、こうだ。この試合で起きたのは戦術の一致ではなく、人の充足と、少ない接点を外さなかった90分である。それは称賛に値するが、称賛の理由を取り違えると、次に外れる。

何を見れば答えが出るか

① 9月12日、イプスウィッチ戦で鎌田がシャドーに残るか

ティンバーが定着すれば残る。戻ればこの配置は1試合限りの都合であり、監督の思想ではなかったことになる。

② パレスの支配率が5割を超えた試合で、鎌田がシャドーに入るか

言説を本当に検証できるのは、この条件が揃ったときだけだ。持てる試合でシャドーの鎌田が60本以上触れば、初めて森保ジャパンとの比較が成立する。それまでこの言説は、当たりも外れも判定できない。

③ タッチ36、守備での関与1、デュエル勝利1が続くか

続くなら、シャドーの鎌田は制御役ではなく仕上げ役である。戻るなら、フラム戦は35%という展開の産物だった。

④ 期待アシストとアシストの乖離が、どちらへ振れるか

昨季は3.24対0、この試合は0.01対1。シーズンを通して並べたとき、彼のアシスト数が期待アシストの上に出るか下に出るかは、まだどちらとも言えない。

このどれかが外れたとき、それが次の記事になる。

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