前田大然は15タッチだった。だがこの日、多く撃っていたのはイプスウィッチのほうである

プレミアリーグ3試合の推移。イプスウィッチの支配率はサンダーランド戦38%、マンU戦40%、リバプール戦45%と上がり続け、前田大然の90分あたりのタッチは36.0回、25.9回、20.5回と減り続けている。
2つの数字が、逆方向に動いている。 数値は FotMob と ESPN の公開値。図は筆者作成

35分だった。ボックスの中へ走り込んだ前田大然が、左足を振り抜く。それが、この試合で彼が放った唯一のシュートだった。

2026年9月4日、ポートマン・ロード。イプスウィッチはリバプールに0-2で敗れている。前田は3試合連続で左ウイングに先発し、66分に退いた。

80分、73分、66分。プレミアリーグでの出場時間は、そういう順番で並んでいる。

まず、筆者が前回書いたことを引き受ける

8月31日の記事で、筆者はこう書いた。

前半と後半で変わったのは前田ではなく、彼が出発する位置より前にあった空間の広さだった。

押し込まれれば前へ出られない。押し返せていれば走り出せる。 マンチェスター・ユナイテッド戦の21タッチを、そう説明した。

この試合は、その説明が使えない試合である。

撃っていたのは、ホームのほうだった

イプスウィッチの支配率は45%だった。 開幕のサンダーランド戦が38%、オールド・トラッフォードが40%だから、プレミアリーグの3試合で最も高い。

シュートは14対10でイプスウィッチが上回っている。xGも0.73対0.66で上回っている。ボックス内でボールを触った回数は16対20で、ここは下回るが、マンU戦の13対44のような差ではない。

0-2という結果は、内容から出てきた数字ではない。 6分と9分の2失点はいずれもGKケル・スヘルペン絡みで、イースト・アングリアン・デイリー・タイムズは彼にチーム最低の採点4を付け、1点目を「ニアポストで彼を抜けていった」と書いている。イサクの2得点は、個別のxGが0.08と0.14しかない。

オニール監督は試合後にこう言っている。

I thought we were excellent. I was really proud of the group. Two mistakes obviously in the first nine minutes, which made it very difficult, but to respond the way they did, to probably be the better side, probably edge it from that moment on, with more shots, was an unbelievable response. (素晴らしかったと思う。このグループを心から誇りに思う。最初の9分に明らかなミスが2つあって非常に難しくなったが、あそこから、より多く撃って、おそらく上回るチームになった。信じられない反応だ)

押し込まれてはいない。押し返している。

それでも、タッチは3試合で最も少なかった

前田のボールタッチは15回だった。

90分に直して並べるとこうなる。

サンダーランド戦マンU戦リバプール戦
出場時間80分73分66分
タッチ322115
90分あたり36.025.920.5
チームの支配率38%40%45%

チームが押し返した試合で、彼のタッチは最も少ない。

2つの数字が、逆方向に動いている。 支配率は3試合で上がり続け、タッチは3試合で下がり続けた。空間の広さで説明していたなら、この動きは説明できない。

対面のサイドバックは、1本も撃っていない

前回の記事の末尾に、筆者はチェックポイントを置いた。「リバプール戦で、対面のサイドバックが何本撃つか」。

マンU戦では、前田の対面にいた右サイドバックのディオゴ・ダロトが4本撃っていた。イプスウィッチの誰よりも多かった。 ここでも複数本撃つなら、あの非対称は2試合限りの話ではない、と書いた。

答えは0本である。

リバプールの10本の内訳は、イサク2本、ソボスライ3本、マック・アリスター2本、ヴィルツ2本、ガクポ1本。サイドバックは左右とも1本も撃っていない。

ただし、この0本をそのまま読むことはできない。

この日リバプールの右サイドバックに入っていたのは、本職がセンターバックのジェレミー・ジャケだった。 コナー・ブラッドリーが膝の手術で離脱し、ジェレミー・フリンポンもハムストリングを痛めている。ジャケ自身もレンヌ時代の肩の脱臼と手術から戻ってきたばかりで、イラオラ監督は試合後、彼を交代させずに「我慢させた」という趣旨の説明をしている。

上がる状態にない選手が、上がらなかった。 それだけの話かもしれない。ダロトの4本と並べて「相手の質の問題」と結論するには、この試合は条件が違いすぎる。

左サイドで前に出ていたのは、ウイングではなかった

では、イプスウィッチの14本は誰が撃ったのか。

フリオ・エンシソが6本である。 14本のうち6本を、トップ下の一人が撃っている。前田は1本、xGは0.03だった。

そして、リーフ・デイビスが1本撃っている。 30分、右からのクロスにヘディングで合わせて外した。xGは0.11で、エメルソンの0.24に次いでこの試合のイプスウィッチで2番目に大きい。

リーフ・デイビスは、前田の後ろにいる左サイドバックである。

イースト・アングリアン・デイリー・タイムズは彼に採点7を付け、「最初から最後まで左サイドを上下に走り続けた」と書いている。左サイドで相手ボックスに到達していたのは、ウイングではなく、その後ろの選手だった。

現地の講評は、批判ではなく所在の指摘である

同紙のスチュアート・ワトソンは、前田に採点5を付けてこう書いた。

Worked hard again, made a big block in his own box, but had very little impact in the final third. Jack Clarke looked more likely to make something happen when he came on. (またよく働いた。自陣ボックスで大きなブロックもした。だがファイナルサードでの影響はごくわずかだった。交代で入ったジャック・クラークのほうが、何かを起こしそうに見えた)

自陣ボックスでブロックをした、と書いてある。 攻撃の記事に、守備の仕事が書き込まれている。

TWTD のサポーター投稿も同じ形をしている。「very quiet」「great work but not sure that’s enough」。 よく働いた、という評価と、それで足りるのか、という疑問が同じ文に同居している。

BBCの採点は5で、講評は「存在感なし」だった。

日本語の言説は、この2試合で反転している

マンU戦のとき、日本語のタイムラインには「通用しまくってる」という言葉が並んでいた。

リバプール戦の翌日、同じ日本語メディアの見出しはこうなった。 「現地メディアから厳しい評価」「加入後初の低採点」「全くインパクトがなく外されても驚きはない」。

だが数字は反転していない。 タッチは36.0、25.9、20.5と、90分あたりで単調に減っているだけである。3試合を通じて、一度も上がっていない。

反転したのは言説のほうだけだ。 現地の採点は3試合とも5前後で動いていない。日本語メディアは、この2試合のあいだに、擁護から翻訳へ立場を変えた。

なお、スポーティングニュース日本版だけは「攻守に奮闘」と書き、タックル5回試行4回成功とプレスバックを評価している。 同じ66分に対して、まったく違う記事が書かれている。

結論として、筆者の前回の見立ては半分外れている

ここからは筆者の見立てになる。

「押し込まれているから出られない」は、この試合で成立しなかった。 押し返した試合で、タッチは最も少なかった。したがって、彼の関与量を決めているのは、チームが押されているかどうかではない。

残るのは、彼が出発する位置そのものである。 支配率が7ポイント上がっても、前田の出発点は前に移らなかった、と読むのが素直だ。だとすれば、これは試合展開の問題ではなく起用法の問題になる。

そしてもうひとつ、書いておかなければならない数字がある。 出場時間が80分、73分、66分と、7分ずつ減っている。

これを法則として読むのは早い。 点が3つしかなく、相手はサンダーランド、マンチェスター・ユナイテッド、リバプールの順で強くなっている。降りる時間が早くなる理由は、序列以外にいくらでもある。 リバプール戦の66分はエメルソンとの同時2枚替えで、前線をまとめて入れ替えた形でもあった。

だが、3試合で一度も伸びていないことは事実である。

何を見れば答えが出るか

① 9月12日のクリスタル・パレス戦で、先発するか。何分でピッチを出るか

80分、73分、66分の次が来る。 ここで再び短くなるなら、相手の強さでは説明できなくなる。逆に伸びるなら、7分ずつは偶然だったことになる。

② 相手ボックス内のタッチが、チーム全体の15%前後に戻るか

8月25日の記事から3回目の持ち越しである。 セルティックでの昨季は約16%、開幕戦は約5%だった。この試合もチーム全体の16回は取れたが、前田個人の値は3試合とも公開値として確認できていない。 取れるようになるまで、この項目は答えが出ない。

③ 対面のサイドバックが本職の試合で、何本撃たれるか

本稿の0本は、負傷者の穴を埋めた本職センターバックが相手だった。 本職のサイドバックと当たる試合で複数本撃たれるなら、ダロトの4本は前田のサイドの性質だったことになる。0本に近いままなら、あの4本のほうが例外だった。

④ xGとゴールの差

3試合を終えて、ゴールは0。ただし合計xGは、異なる2つのモデルをまたぐため本稿では出さない。(→ データについて)

このどれかが外れたとき、それが次の記事になる。


データについて