前田大然は21タッチだった。対面のダロトは、イプスウィッチの誰よりも多くシュートを撃っている

マンチェスター・ユナイテッド戦の左右比較。前田がいた左サイドの対面ダロトはシュート4本・守備介入3回。ファタウがいた右サイドの対面ショーはシュート1本・守備介入7回。ウイング本人のタッチは前田21回、ファタウ38回。
一方のサイドバックは攻め、もう一方は守っていた。前田がいたのは、攻められた側である。 数値は ESPN の公開値。図は筆者作成

前半8分だった。左のタッチライン際でボールを受けた前田大然は、そのまま縦に出る。スピードで2人を置き去りにし、ボックス脇のポケットまで入った。 23分にはスルーパスに抜け出し、左足で撃っている。GKゼネ・ラメンスが弾いた。

オールド・トラッフォードで、彼は最初の30分をそうやって使った。

そしてハーフタイムのスコアは1-1だった。イプスウィッチは29分にリーフ・デイビスの一撃で先制している。ここまでは、拮抗している試合に見えた。

終わってみれば2-5である。前田は73分に退き、日本では「通用しまくってる」という言葉が並んだ。現地が付けた採点は、5だった。

まず、その5点の中身を読む

イースト・アングリアン・デイリー・タイムズのアレックス・ジョーンズは、前田にこう書いている。

Ran his socks off and could have scored on another day, forcing Senne Lammens into a fine save. Had limited opportunities but made Diogo Dalot work down his flank. (走り回った。別の日なら決まっていたかもしれない一本で、ラメンスに好セーブを強いた。機会は限られていたが、自分のサイドでディオゴ・ダロトに仕事をさせた)

これは批判ではない。 走ったと書き、決まっていたかもしれないと書き、相手のサイドバックに守備をさせたと書いている。

そのうえで「機会は限られていた」と書いてある。 5点という数字より、この一節のほうが多くを語っている。

なお同じ採点でチーム最高は6で、アブドゥル・ファタウがマン・オブ・ザ・マッチだった。最低はジェイコブ・グリーブスの4である。

90分の量で見ると、話が変わる

前田の73分間の記録はこうだった。

タッチ21回、シュート1本、xG 0.05、守備介入3回。

同じ試合で、反対サイドのファタウは38タッチである。ほぼ倍だ。 ファタウはルーク・ショーを終始破り、デイビスの得点を演出している。

同じチームの、同じ試合の、左右のウイングである。それで倍近い差がついた。

この差は、二人の出来の差ではないと筆者は考えている。 差を作ったのは、それぞれの正面に立っていた選手のほうである。

左右で、サイドバックの仕事が逆だった

マンチェスター・ユナイテッド戦の左右比較。前田がいた左サイドの対面ダロトはシュート4本・守備介入3回。ファタウがいた右サイドの対面ショーはシュート1本・守備介入7回。ウイング本人のタッチは前田21回、ファタウ38回。
同じチームの両サイドバックが、正反対のことをしていた。数値は ESPN の公開値、図は筆者作成。

前田の対面、右サイドバックのディオゴ・ダロトはシュートを4本撃っている。 守備介入は3回だった。

ファタウの対面、左サイドバックのルーク・ショーはシュート1本。 守備介入7回、デュエル勝利6回である。

同じチームの両サイドバックが、正反対のことをしていた。 片方は前に出て撃ち、片方は後ろで守らされていた。

そしてダロトの4本という数字は、イプスウィッチのどの選手よりも多い。 チーム最多はフリオ・エンシソの3本である。相手の右サイドバックが、こちらの誰よりも撃っている試合だった。

前田がいたのは、その側である。

そもそも彼は、最初から低い位置にいた

これは後半の成り行きではない。

EADTのステュアート・ワトソンは、この試合のイプスウィッチの守り方について、守備時に前田が左サイドバックの位置を取る形だったと書いている。 マンチェスター・ユナイテッドの裏へのランを制限するための配置である。

つまり「押し込まれたから下がった」のではなく、「下がる設計で入り、前半はそこから出られていた」ということになる。

前半の2つの場面は、その設計の中で起きている。8分の突破も23分の抜け出しも、低い位置からの出発だった。

後半にマンチェスター・ユナイテッドの圧力が上がると、出発はできても、攻撃に転じる回数そのものが減った。 ゲキサカはこれを「攻撃へ移る回数を増やせないまま途中交代」と書いている。

交代は、出来の評価ではない

73分、ゲイリー・オニールは前田とサシャ・ルキッチを同時に下げた。入ったのは右サイドバックのダーネル・ファーロングである。

5バックへの変更だった。

68分にフェルナンデスがハットトリックを完成させ、1-4になった5分後である。ウイングを1枚削って、最終ラインを増やした。これは前田の出来に対する判定ではなく、失点を止めるための形の変更である。

「惜しいシュート」の重さを測る

23分の一本は、日本の報道では「惜しい」と書かれ、現地では「a fine save」と書かれた。どちらも間違っていない。

ただし、その一本のxGは0.05である。

前回の記事(前田大然が頭で外したあの一本は、昨季の3本分の重さがあった)で扱った開幕サンダーランド戦のヘディングは、0.61だった。同じ「惜しい」でも、12倍の差がある。

0.05は、決定機ではない。 期待値としては、20本撃って1本入る場面である。この日の前田に、決定機は回ってきていない。

消えたのは、前田ではない

後半に何が起きたかは、チームの数字を見ると分かる。

マンチェスター・ユナイテッドのシュートは33本。 Opta によれば、これは昨季1年間のどの試合よりも多い。 相手ボックス内でボールを触った回数は44回だった。

イプスウィッチはシュート9本、ボックス内タッチ13回である。

そして採点の講評は、守備陣で揃っている。ダラ・オシェイは「前半はうまくやったが、ユナイテッドに狙われ続けて後半に上回られた」。イサ・ディオプは「前半は良かったが、後半は手も足も出なかった」。グリーブスは「鋭い前半だったが、後半は切り裂かれた」。

個人ではなく、チームが崩れたと書かれている。

ボックス内タッチが13回しかないチームで、左ウイングが21タッチだったことを、その選手の責任として読むのは難しい。

それでも、言説の側に残る材料

「通用していた」と言えるだけの場面は、確かにあった。 8分の突破は2人を抜いている。プレミアリーグの2節目に、それを一度でもやっている。

プレスの効果は数字に出にくい。 ゲキサカは、彼が相手の最終ラインの組み立てに寄せてパスコースを限定していたと書いている。これはタッチ数にも守備介入にも計上されない仕事である。

そして現地は、彼に守備の落ち度を書いていない。 5失点した試合で、名前が挙がっているのは他の選手である。

21タッチという数字は、「通用しなかった」の証拠にはならない。 それは接触の量であって、質ではない。

結論として、どちらの言説も半分ずつ正しい

ここからは筆者の見立てになる。

「通用していた」は、前半の2場面については正しい。 「後半に消えた」も、攻撃に転じた回数については正しい。

そして、その2つは同じ一つの事実の別の側面である。 低い位置から出発する設計の左ウイングは、チームが押し返せている間は走り出せて、押し込まれると出られなくなる。前半と後半で変わったのは前田ではなく、彼が出発する位置より前にあった空間の広さだった。

この日いちばん雄弁な数字は、前田の21タッチではない。ダロトの4本のほうである。

何を見れば答えが出るか

① 9月4日のリバプール戦で、対面のサイドバックが何本撃つか

ホームだが、また押し込まれる試合である。 ここでも相手の右サイドバックが複数本撃つなら、マンU戦の非対称は相手の質の問題であって、この2試合に限った話ではない。

② 9月12日のクリスタル・パレス戦で、ボックス内タッチのチーム内シェアが戻るか

前回記事の①からの継続である。セルティックでの昨季は約16%、開幕戦は約5%だった。 パレスはマンチェスター・ユナイテッドほど押し込んでこない。それでも5%前後なら、オニールは彼をボックスに入る役として使っていない。

③ xGとゴールの差

前回記事の⑤からの継続である。2試合を終えて、xGの合計は0.66、ゴールは0。 まだ判断できる量ではない。

なお前回の④「マンU戦で先発するか」は先発した。 開幕戦の守備量を評価した起用だという読みは、この点では外れていない。

このどれかが外れたとき、それが次の記事になる。


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