前田大然は、左ウイングを奪われたのではない。昇格の主力に返した
9月12日、セルハースト・パークの63分。ジャック・クラークが下がり、代わって前田大然がピッチに入った。
8日前のリバプール戦の66分と、出る側と入る側が逆である。
前田がプレミアリーグでベンチから試合を始めたのは、これが初めてだった。イプスウィッチは90分にジアン・フレミングが決め、10人のクリスタル・パレスに3-2で勝っている。
「案の定」は、結果としては正しい
80分、73分、66分。開幕から3試合、前田は左ウイングで先発し、試合ごとに7分ずつ早くピッチを出ていた。
9月6日の記事で、筆者はこう書いている。
80分、73分、66分の次が来る。ここで再び短くなるなら、相手の強さでは説明できなくなる。
答えは、次が来なかった、である。4試合目は先発ですらなく、出場は途中からの27分だった。相手はリバプールではなく、パレスである。
出場時間は、4試合で一度も伸びていない。「レギュラーを取られた」という受け止めは、結果については正しい。
だが、現地は前田の先発を予想していた
意外だったのは、むしろ地元のほうである。
イプスウィッチの地元紙イースト・アングリアン・デイリー・タイムズ(EADT)は、パレス戦の予想スタメンで前田を左ウイングに置いていた。リバプール戦のタッチの少なさにも、交代で入ったクラークのほうが脅威に見えたことにも触れたうえで、こう書いている。
His primary role is to force mistakes and bring the best out of left-sided partner Davis. (彼の第一の役割は、相手のミスを誘い、左サイドで組むデイヴィスの良さを引き出すことだ)
英国の Sports Mole も、予想スタメンの左に前田を置いていた。
予想は外れた。前田の先発落ちを予告していたのは、記者の予想ではなく、出場時間の減り方のほうだった。
替わったのは、1人だけだった
ESPNの配置データでリバプール戦とパレス戦のスタメンを並べると、違うのは左ウイングの1人だけである。
GKスヘルペン、最終ラインのオシェイ、ディオプ、グリーヴス、デイヴィス、中盤のルキッチとパラシオス、右のイサハク、トップ下のエンシソ、1トップのエメルソン。10人は同じで、左の前田だけがクラークになった。
しかもリバプール戦でもパレス戦でも、2人は直接入れ替わっている。オニール監督は、同じ1つの枠を2人で回している。
クラークは、新しく来た選手ではない
ここで「奪われた」という言葉が引っかかる。奪うのは、後から来た側の動詞だからだ。
後から来たのは前田のほうである。前田がセルティックから加入したのは2026年7月で、クラークは2024年8月からイプスウィッチにいる。
そしてクラークは、昨季チャンピオンシップで46試合16得点を挙げている。イプスウィッチが1年でプレミアに戻った、その昇格シーズンの主力である。パレス戦では、同じくウイングのジェイデン・フィロジーン(昨季36試合12得点)も負傷から戻り、今季初めてピッチに立った。
開幕から3試合、前田は昇格の主力を押しのけて左に立っていた。パレス戦で起きたのは、その枠が元の持ち主に戻ったことである。
では、なぜ前田が先に選ばれていたのか。クラークにも弱みがある。2024-25シーズン、イプスウィッチが前回プレミアにいた年、クラークはリーグ戦32試合に出て0得点だった。
EADTのマーク・ヒース記者は、開幕3試合を終えた時点で2人をこう比べている。
He’s certainly a better, more skilful attacking player than left-wing starter Daizen Maeda. Clarke can’t do what Daizen does consistently - relentless pressing, non-stop effort and pure pace - which is so important to competing at this level. (クラークは、左ウイングで先発している前田より、確かに上手く、技術のある攻撃の選手だ。だが前田が続けてやっていること、休みないプレス、止まらない献身、純粋な速さは、クラークにはできない。そしてそれが、このレベルで戦うには非常に重要なのだ)
攻撃はクラーク、守備の量は前田。オニールは開幕から、後者を取っていた。
途中出場の24分で、24回触っていた
その判断を揺らしたのは、クラークが途中から入った時間の数字である。
| サンダーランド戦 | マンU戦 | リバプール戦 | パレス戦 | |
|---|---|---|---|---|
| 前田の出場 | 先発・80分 | 先発・73分 | 先発・66分 | 途中・27分 |
| 前田のタッチ | 31 | 21 | 15 | 10 |
| クラークの出場 | 途中・19分 | 出場なし | 途中・24分 | 先発・63分 |
| クラークのタッチ | 8 | — | 24 | 35 |
リバプール戦がいちばん分かりやすい。前田は66分で15回、交代で入ったクラークは残りの24分で24回ボールに触っている。前回の記事で引いたとおり、EADTのスチュアート・ワトソン記者も当時「クラークのほうが何かを起こしそうに見えた」と書いていた。
サンダーランド戦では、71分から入ったクラークが90分に決勝点を決めている。
そして先発したパレス戦では、63分で35タッチ、期待ゴール(xG)0.15。34分にパレスのアクセル・ディサシが一発退場になった場面で、スタッドを受けたのもクラークだった。EADTの採点はクラーク7、前田6である。
「持てる相手ならクラーク」は、試合前に書かれていた
先に引いたヒース記者の考察は、こう続いている。
Is there a case to start him against sides where you expect to have a bit more of the ball? (もう少しボールを持てると見込める相手には、彼を先発させる理由があるのではないか)
パレス戦のイプスウィッチの支配率は54%で、プレミア4試合で最も高かった。サンダーランド戦が38%、マンU戦が40%、リバプール戦が45%である。
ボールを持てる試合で、上手いほうのウイングが先発した。筋は通って見える。
ただし、この54%は割り引いて読まなければならない。パレスは34分から10人だった。持てると見込んでクラークを選んだのか、10人が相手だったから持てたのかは、試合の数字からは切り分けられない。オニール監督は、確認できた範囲の試合前後のコメントで、この入れ替えに一言も触れていない。
前田の27分は、判定に使えない
前田自身の27分は、10タッチ、シュート0、デュエル勝利0だった。
90分に直すと33.3回で、先発した3試合のうち2試合より多い。だがこの数字で「途中出場で持ち直した」とは書けない。前田がピッチにいた時間は、すべて相手が10人だった。
EADTの採点6には、こう添えられている。
A typical Daizen Maeda. Running, pressure, but nothing to work with in the final third. (いつもの前田大然。走り、圧をかける。だがファイナルサードでは、使えるものが何もなかった)
リバプール戦で採点したのは別の記者だったが、そのときも「ファイナルサードでの影響はごくわずか」と書かれていた。採点者が替わっても、足りないと書かれる場所は同じである。
本人も試合後、GOALの取材にこう話している。
早くゴールやアシストを取らないと、チームに置いていかれると思う。そういう結果をしっかりと残していけたら
筆者の見立て
「レギュラーを取られた」は正しい。「奪われた」は、経緯を逆に書いている。
前田は、空いていた枠に入ったのではない。昇格シーズンに16点を取った主力を、守備の量で上回って開幕の左に立った。その3試合で、攻撃の数字が守備の量を正当化するところまで届かなかった。ESPNの数字で揃えると、4試合の期待ゴールは合計0.69、得点は0である。そのうち0.61は開幕戦の数字で、残りの3試合は合わせて0.08しかない。
だから今起きているのは、新顔に居場所を奪われた話ではなく、元の持ち主に枠を返した話である。
そのうえで、筆者はまだ「序列が入れ替わった」とまでは書かない。ヒース記者が書いたとおり、相手によって使い分けている可能性が残っているからだ。持たれる試合ではプレスの前田、持てる試合では仕掛けのクラーク。そうであれば、前田の立場はレギュラー落ちではなく、相手を選ぶ先発になる。
どちらなのかは、パレス戦の1試合からは決められない。10人が相手だった試合は、どちらの読みにも都合よく使えてしまう。
何を見れば答えが出るか
① 9月19日のエヴァートン戦(アウェイ)で、左ウイングに誰が先発するか
前田が戻れば、相手による使い分けである。クラークが続けて先発するなら、序列そのものが入れ替わったと判定する。
② 9月15日のカラバオ杯アーセナル戦は、判定に使わない
リーグ戦の合間のカップ戦で、控え中心の構成になる可能性が高い。前田が先発しても、ベンチでも、①の判定材料にはしないと先に書いておく。
③ 前田の期待ゴールと得点の差
4試合で0.69に対して0。得点が先に来るか、期待ゴール自体が伸びないまま出場が減るか。本人が口にした「置いていかれる」の中身は、ここに出る。
④ 相手ボックス内のタッチのチーム内シェア
8月25日の記事から4回目の持ち越しになる。前田個人の値は、今回も公開値として取れていない。取れるまで判定しない。
なお9月6日の記事の③「本職のサイドバックと当たる試合で、対面に何本撃たれるか」も、前田の出場中は相手が10人だったため判定できない。
このどれかが動いたとき、それが次の記事になる。
データについて
- 出典:出場時間・タッチ・期待ゴール・デュエル勝利・スタメンの配置は ESPN の試合ページ(第1節 gameId 401879299、第2節 401879293、第3節 401879288、第4節 401879281)。本稿は4試合すべてを ESPN の値で揃えた
- 開幕戦の前田のタッチは、ESPN では31回である。8月25日と9月6日の記事では FotMob の32回を使っていた。本稿は4試合の提供元を揃えるため ESPN の値に替えている。同じ理由で、リバプール戦は ESPN の15回を採り、EADT と Sofascore の16回は採っていない
- 期待ゴールの合計0.69は、4試合とも ESPN の値を筆者が足したものである。9月6日の記事では開幕戦が FotMob の値だったため合計を出さなかったが、ESPN の開幕戦の値も0.61で同じだった
- ESPN の選手データは、ページの埋め込みデータを選手ごとに区切って読んだ。区切りを誤ると隣の選手の値が入る。最初の抽出で「マンU戦のクラークが先発・得点」と出たのはリーフ・デイヴィスの行で、クラークは同試合のベンチ入りメンバーに名前があり、出場記録はない
- 途中出場の出場時間は、交代の分から90分までの名目で数えた。アディショナルタイムを含まないため、本文の「24分で24タッチ」や、前田のパレス戦の90分換算33.3回は、実際より高めに出ている
- 支配率は、38%・40%・45%が FotMob、54%が ESPN の値で、提供元がまたがっている
- パレス戦のスタメンの照合:リバプール戦とパレス戦の先発11人を ESPN の配置データで突き合わせた。TWTD(イプスウィッチのファンサイト)の見出し「Clarke Starts at Palace」とも一致する
- 前田の交代相手:ESPN、EADT の採点記事(「for Clarke, 63」)、サッカーキングはクラーク。EADT の別の記事は「62分」としている。本稿は ESPN を採った
- クラークとフィロジーンの昨季成績、クラークの2024-25シーズンの成績は、Wikipedia の出場記録表(出典は Soccerbase)の値。クラークの加入時期(2024年8月24日)も同ページによる(出典はクラブ公式の発表)
- 予想スタメンは EADT と Sports Mole の試合前記事による。オニール監督のコメントは、EADT、PA、Sky Sports の試合後記事と、BBC の試合前記事で確認した。いずれもこの入れ替えに触れていない。EADT の試合前会見記事は本文を取得できなかったため、「触れていない」は確認できた範囲での記述である
- 採点:パレス戦は EADT のアレックス・ジョーンズ、リバプール戦は同紙のスチュアート・ワトソン。採点者が違うため、5から6へ「上がった」とは比べていない。TWTD のサポーター採点は投票受付中で、平均値を確認できなかった
- ヒース記者の考察は、EADT の開幕3試合の総括記事による。掲載日は本文から確認できなかった。「持てる相手ならクラーク」は記者の提案であり、監督の説明ではない
- 前田のコメントは GOAL の報道(Yahoo!ニュース掲載)による。英文の訳は筆者。見立てと判定は筆者のものであり、クラブの発表ではない