三笘薫が失ったのは、決定力ではない
10ゴールから、3ゴールへ。
三笘薫の得点は、2024-25シーズンから2025-26シーズンにかけて7点減った。「決定力が落ちた」と言われている。
だが数字を開くと、外した回数は変わっていなかった。
まず、落ちたのは事実だ
プレミアリーグでの記録である。
| シーズン | 出場 | 出場時間 | ゴール | xG |
|---|---|---|---|---|
| 2022-23 | 33 | 2,315分 | 7 | 8.10 |
| 2023-24 | 19 | 1,488分 | 3 | 3.35 |
| 2024-25 | 36 | 2,608分 | 10 | 9.16 |
| 2025-26 | 25 | 1,721分 | 3 | 4.06 |
90分あたりに直すと、0.345点から0.157点。半分以下である。擁護のしようがない下落だ。
だが「決めそこねた」のではない
ここから中身を割る。
| 90分あたり | 2024-25 | 2025-26 |
|---|---|---|
| ゴール | 0.345 | 0.157 |
| 期待ゴール(xG) | 0.316 | 0.212 |
| ビッグチャンスを外した回数 | 0.414 | 0.418 |
決定機を外した回数は、ほとんど同じだ。
そしてxGも0.316から0.212へ、33%落ちている。 xGはシュートを打った位置と状況から算出される。つまり彼は、決めそこねたのではなく、決められる場面そのものが減っていた。
「決定力」で説明できるのは、この下落のごく一部でしかない。
変わったのは、撃った場所だった
シュートを、ペナルティエリアの内と外で分ける。
エリア内が1.69本から1.26本へ、26%減った。 その一方で、エリア外は0.28本から0.42本へ、5割増えている。
全シュートに占めるエリア内の比率は、86.0%から75.0%に下がった。
得点の出どころも同じ話をしている。2024-25の10点のうち9点がエリア内から。2025-26は3点のうち2点である。
彼は、遠くから撃つ選手になっていた。
仕掛ける回数も減っていた
もう一つ、はっきり動いた数字がある。ドリブルだ。
| 90分あたり | 2024-25 | 2025-26 |
|---|---|---|
| ドリブル試行 | 4.35回 | 3.30回 |
| ドリブル成功率 | 41.3% | 44.4% |
試行が24%減っている。 だが成功率はむしろ上がっている。
止められるようになったのではない。仕掛けなくなったのだ。 そして彼の場合、仕掛けることと中に入ることは、同じ動作の表と裏である。
そのかわり、増えたものがある
| 90分あたり | 2024-25 | 2025-26 |
|---|---|---|
| キーパス | 1.28本 | 1.62本 |
27%増えている。
中で撃つ回数が減り、外から出すパスが増えた。昨季の三笘は、ゴールを取る選手から、ゴールを作る選手のほうへ寄っていた。 それ自体は悪いことではない。だが得点は減る。
なぜそうなったか
答えは、シーズンの形にある。
開幕から6試合は連続先発だった。そこから10月上旬〜12月上旬、9試合を続けて欠場している。
ファビアン・ヒュルツェラー監督の説明はこうだった。
「三笘はまだ打撲からの回復が必要だ。できるだけ早く戻したいと思っているし、復帰は近かったが、慎重にいく必要がある」(2025年10月18日)
11月に入っても復帰は「五分五分」とされた。戻ったのは12月中旬で、最初の3試合は26分・26分・32分の交代出場である。
1月から3月にかけては先発が並ぶ。この安定した時期に、3点のうち1点が生まれている。 そして3月中旬から再び細切れになり、5月9日のウォルバーハンプトン戦、58分で左ハムストリングを痛めて終わった。
中に入り続けるには、連続した出場が要る。 26分の交代出場でエリア内に1.69本ぶんの動きは作れない。
そして今季、まだ1分も出ていない
ブライトンは5月25日、手術を発表した。
「手術が成功し、三笘がリハビリプログラムの初期段階に入ったことは朗報だ。(中略)現在はクラブのメディカルチームと協力しながらリハビリに専念し、来シーズンの復帰を目指している」(ヒュルツェラー監督)
クラブが示した目標は「来シーズン」であって、具体的な日付ではない。
その後の経緯はこうだ。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 6〜7月 | W杯を欠場。森保監督「大会中の復帰は難しいと医療スタッフが判断した」 |
| 8月2日 | 日本でのリハビリを経てチーム合流。まだリハビリ中 |
| 8月15日 | ボローニャとの親善試合、欠場 |
| 8月16日 | ヒュルツェラー監督「復帰からそれほど遠くないかもしれない」 |
| 8月20日 | カンファレンスリーグ・プレーオフ、メンバー外 |
| 8月23日 | プレミア開幕戦。欠場濃厚と報道 |
クラブは一度も、復帰の時期を口にしていない。
「10月復帰」はどこから来た数字か
ここは丁寧に確かめておきたい。日本語圏で見かける「9月末から10月に復帰」という見通しの出所である。
たどると、地元紙 Sussex Express の5月26日の記事に行き着く。 そこにはこう書かれている。
ハムストリングの手術からの回復は4〜6か月かかることが多いが、手術の程度とリハビリの過程に大きく左右される。仮に回復が4か月程度なら、三笘は9月末から10月にかけて復帰できるかもしれない。
つまり「10月」は、一般的な回復期間の幅のうち、最も早い側を取った場合の話である。 クラブの発表でも、医師の診断でもない。そして記事自身が「4〜6か月」と幅を明示している。
この幅を、そのまま計算に入れるべきだ。
では、二桁は届くのか
手術の発表は5月25日。そこから4か月なら9月下旬、5か月なら10月下旬、6か月なら11月下旬になる。ブライトンの実際の日程で、残り試合数はこうなる。
最も早い9月下旬の復帰でも、二桁に届くのは「残り33試合すべてに90分出て、キャリア最高の得点率を維持した場合」だけだ。
そしてその2,970分は、彼がプレミアリーグで一度も到達したことのない出場時間である。最も多かった2024-25でも2,608分だった。
5か月かかれば、上限がちょうど10.0点。 1試合でも休めば届かない。6か月なら、キャリア最高のペースを出しても9.0点で足りない。
筆者の見立てでは、今季の二桁はない。
ただしそれは能力の話ではない。 彼に足りないのは決定力ではなく、中に入り続けるための連続した出場時間であり、今季はその原資が最初から削られている。
何を見れば答えが出るか
① 今夜のアストン・ヴィラ戦、メンバーに入るか
入れば、報道より回復が早い。入らなければ、復帰は9月以降になる。
② 復帰後、エリア内のシュートが1.69本に戻るか
本稿の核心はここだ。 戻るなら、昨季の下落は出場が切れていたことの結果だったことになる。1.26本のままなら、役割そのものが変わったということだ。
③ ドリブル試行が4回台に戻るか
3.30回のままなら、仕掛ける役割から離れたと見るべきである。
④ 契約がどうなるか
現行契約は2027年6月まで。 延長交渉に「大きな進展の兆候は見られない」と報じられている。復帰時期と契約は、来夏に向けて同じ問題になる。
このどれかが外れたとき、それが次の記事になる。
データについて
- 出典:Sofascore の公開値(プレミアリーグ、2022-23から2025-26の各シーズン)。全シーズンを同じ提供元で揃えている。 90分あたりの値は各シーズンの合計を出場時間で割って筆者が算出した。
- xG は推定値。「決められる場面が減った」ことの根拠として用い、個別のシュートの評価には用いていない。ビッグチャンスの定義も提供元によるもので、他社の集計とは一致しない場合がある。
- 出場時間の推移図はリーグ戦38試合のみで、カップ戦と代表戦を含まない。欠場理由が負傷と確認できたのは10〜12月(監督の発言)と5月9日以降で、それ以外は理由を確認していない。
- 復帰時期をクラブは一度も示していない。 本稿の「4〜6か月」は Sussex Express が挙げた一般的な回復期間であり、三笘個人への診断ではない。 残り試合数は2026-27の実際の日程から数えた。得点の試算は「残り全試合に90分出場する」という上限で、予測モデルの出力ではない。復帰が9月中旬より早ければ結論は動く。
- 負傷・手術・契約はクラブ公式発表および複数の報道による。 手術日そのものは未公表。契約延長交渉は The Athletic の報道を引いた各媒体によるもので公式発表ではない。監督および森保監督の発言の訳は筆者。