坂元達裕は前を行く22歳の2.6倍決定機を作る。だが今のコヴェントリーに、その場面が無い

昨季のチーム内シェアを出場時間で調整した比較。相手ボックス内タッチは坂元9.8%に対しチャウナ12.0%、ビッグチャンス創出は坂元12.9%に対しチャウナ4.9%、ゴールは坂元12.0%に対しチャウナ14.2%。
素の数字では全項目で坂元が上回るが、チームの総量で割ると勝っているのは創出だけになる。 数値は FotMob の公開値。図は筆者作成

82分だった。0-3のエミレーツ・スタジアムで、フランク・ランパードはこの日4人目の交代としてグスタボ・ハマーを送り出す。それが最後の交代になった。坂元達裕の名前は、呼ばれなかった。

2026年8月21日、コヴェントリー・シティは25年ぶりのプレミアリーグをアーセナル戦の完敗で始めた。坂元はメンバーに入っていた。出番だけが無かった。

「坂元の現在地はスタメンではない」。これは正しい。ただし、そうなった理由は彼の出来ではない。

その席は、4月6日に空いた

昨季の坂元は、控えではなかった。

2025-26シーズンのチャンピオンシップで35試合に出場し、うち29試合が先発。2,494分で7ゴール3アシスト、平均評点7.1。コヴェントリーは勝点95でリーグを制している。優勝チームの右ウイングを、ほぼ一年通して務めた選手である。

その連続が切れたのは、4月6日のハル戦だった。ほぼ90分プレーしたこの試合で、彼は肋骨を痛めている。

ランパードは次のブラックバーン戦の前にこう話した。「この試合には間に合わない。本人は大丈夫だが、肋骨は痛みが残るケガだ」。シーズン中に戻れるかを問われると、「それは様子を見るしかない」と答えている。

戻れなかった。 第42節から最終節まで5試合連続でメンバー外。そしてその5試合の2つ目、4月17日のブラックバーン戦で、コヴェントリーは昇格を確定させた。あと勝点1という試合に、彼はいない。

彼が抜けている間に、クラブは1億ポンドを使った

昇格したクラブは、夏の間にクラブ最高額を3度更新した。£20mのチャウナ、£22mのラッシュワース、£26mのイレンキと積み上がり、補強総額は1億ポンドを超えている。

その最初の一人が、坂元の場所に落ちてきた。

ルーム・チャウナ、22歳。7月11日にバーンリーから加入。報道ベースで£20m、契約は2031年までの5年である。180cmの左利きで、主戦場は右ウイング。 坂元は170cmの左利きで、主戦場は右ウイング。利き足も担当サイドも同じである。

もう一人の右ウイングは売られた。 1月に加入していたヤーノア・マルケロは、8月8日にシャバブ・アルアハリへ£4.4mで移籍している。

坂元の契約は2027年6月まで、残り1シーズン。市場価値は€2.4mと評価されている。£20mと€2.4m。序列は、金額の側から先に決まっていた。

素の数字なら、坂元が勝つ

では実力はどうか。昨季の両者を90分あたりで並べる。

決定機の創出は坂元1.30回に対しチャウナ0.92回。ビッグチャンスの創出は0.36回に対し0.07回。相手ボックス内のタッチは2.89回に対し2.06回。ドリブルは0.94回・成功率47.3%に対し、0.50回・33.3%。ゴールは0.25に対し0.14。

全項目で坂元が上回る。

だが、この比較は成立しない。 坂元はチャンピオンシップを優勝したチームにいた。チャウナはプレミアリーグを最下位で降格したバーンリーにいた。押し込むチームのウイングと、押し込まれるチームのウイングを、そのまま並べても意味がない。

チームの総量で割ると、逆転する

そこで、それぞれのチームが記録した総量のうち本人が占めた割合に直す。出場時間の差も調整した。

結果はこうなる。相手ボックス内タッチは坂元9.8%に対しチャウナ12.0%。ゴールは12.0%に対し14.2%。 素の数字では倍近く離れていた項目で、むしろチャウナが上回る。

坂元が明確に勝っている項目は、ひとつだけ残った。ビッグチャンスの創出、12.9%に対し4.9%。約2.6倍である。

昨季のチーム内シェアを出場時間で調整した比較。相手ボックス内タッチは坂元9.8%に対しチャウナ12.0%、ビッグチャンス創出は坂元12.9%に対しチャウナ4.9%、ゴールは坂元12.0%に対しチャウナ14.2%。
濃い帯が坂元、薄い帯がチャウナ。坂元が明確に上回るのは、真ん中の一本だけである。数値は FotMob の公開値、図は筆者作成。

この2人は、似た体格の同じ利き足で同じサイドに立つが、やっていることが違う。 チャウナは箱に入って自分で撃つ。坂元は、他人のために作る。

問題は、その席で待っている仕事のほうだ

ここからが本題である。

アーセナル戦のコヴェントリーは、支配率36%、シュート4本、xG 0.20だった。そして相手ペナルティエリア内でボールを触った回数は、チーム全体で3回。アーセナルは36回である。

先発した右ウイングのチャウナは、82分間でボックス内タッチ0回、決定機の創出0回。代わりに記録したのはクリア3本と守備アクション8回、走行距離9.4kmだった。

昇格組の右ウイングに用意されていたのは、作る仕事ではなかった。

コヴェントリーは昨季、1試合あたり29.4回相手ボックス内でボールを触っていた。リーグ24チーム中2位である。開幕戦は3回。10分の1になった。 バーンリーが昨季プレミアで記録した17.1回すら、遠い。

チーム全体が1試合あたりに記録した相手ボックス内タッチ。コヴェントリーの昨季チャンピオンシップは29.4回でリーグ2位、バーンリーの昨季プレミアリーグは17.1回でリーグ最下位、コヴェントリーの開幕アーセナル戦は3回。
昨季29.4回だったものが、開幕戦は3回だった。降格したバーンリーの17.1回にも届いていない。数値は FotMob の公開値、図は筆者作成。

坂元がいちばん得意な仕事の、材料そのものが減っている。

4日後、彼は90分プレーした

8月25日、EFLカップ2回戦。ランパードは先発を9人入れ替え、坂元を右ウイングに置いた。90分フル出場、評点7.0。 チャウナはベンチで温存され、出番は無かった。

内容は控えめである。53タッチ、シュート1本(xG 0.07)、決定機創出1回(xA 0.55)、ボックス内タッチは1回。相手は3部のプリマスで、コヴェントリーは4-2で勝っている。

それでも、この起用の意味ははっきりしている。 リーグでは使われず、カップでは90分。序列は「二番手」であって、「戦力外」ではない。

これは力の話ではなく、設計の話である

ここからは筆者の見立てになる。

7月にチャウナが加入したとき、地元紙は彼を「坂元への競争と控えを加えるための獲得」と書いていた。 当時の前提では、一番手は坂元だった。それが1か月半で入れ替わったのは、坂元が落ちたからではなく、£20mの22歳を5年契約で獲ったクラブが、その投資を先に走らせているからだと筆者は見ている。

そして残酷なのは、その一番手の席が、坂元の得意な仕事を必要としていないことである。ボックス内タッチが1試合3回のチームで、創出の巧さは出番を持たない。必要とされるのは、クリアと走行距離だ。

29歳、契約は残り1年。彼が取り戻すべきなのは「昨季の自分」ではない。昨季とは別の仕事のほうである。

何を見れば答えが出るか

① 8月29日のハル戦で先発するか

昇格組同士の、ホームの試合である。 アーセナル戦より確実にボールを持てる。創出型を使うなら、ここが最も自然な場所になる。 ここでも使われないなら、リーグ戦の序列は当面動かない。なお相手のハルには守田英正がいる。

② 起用されたとき、チーム内のビッグチャンス創出シェアが10%を超えるか

実数ではなく比率で見る。 チームが押し込めたかどうかの影響を外せるからである。昨季は12.9%だった。プレミアでも10%を超えるなら、環境が変わっても作れる選手だということになる。

③ 12月までにリーグ戦の先発が3試合に届くか

届かないまま冬を迎えるなら、残り1年の契約は移籍の話に変わる。 現時点で他クラブの関心は報じられていない。

このどれかが外れたとき、それが次の記事になる。


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