田中碧を構想外と書いた数字は、1か月で反転した

8月2日のリバプールとの親善試合で、田中碧はボックス内タッチ0、決定機創出0、ロングボール成功率0%だった。9月5日のブライトン戦では、ボックス内での決定的な場面が3、アシストが1、同じ媒体の採点が8だった。
左は「構想から外れつつある」と書いた記事が並べた数字。右は33日後、同じ媒体が同じ選手につけた数字である。 数値は MOT Leeds News の記事による。図は筆者作成

8月2日、シカゴのソルジャー・フィールド。リーズ・ユナイテッドはリバプールに0-2で折り返した。田中碧は、ハーフタイムでピッチを出た。

翌日、現地の専門メディアが彼の前半45分を数字で並べた。ボックス内タッチ0、決定機創出0、ロングボール成功率0%。

そして、こう書いた。「ファルケにとって、ほとんど二の次の存在になってしまった」。

まず、33日後に何が起きたか

9月5日、プレミアリーグ第3節。アメックス・スタジアム。ブライトン 1-1 リーズ・ユナイテッド。

田中碧は今季のリーグ戦で初めて先発し、73分までプレーした。15分、リーズの先制点をアシストしている。

これは今季初アシストではない。プレミアリーグでの初アシストである。昨季の彼はプレミアで28試合に出場し、2ゴール0アシストだった。

そして、8月3日に「二の次」と書いたのと同じ媒体が、この日の彼に8点をつけた。チームの最高点である。書かれた講評はこうだった。「アシストが無かったとしても、アメックスのピッチで最高の選手の一人だった」。

「構想外」の記事は、印象ではなく数字を並べていた

ここを飛ばすと、この記事は成立しない。

8月3日のMOT Leeds Newsは、感想を書いたのではなかった。リバプール戦の前半45分について、こう並べている。

パスミス4、決定機創出0、ボックス内タッチ0、ファイナルサードへのパス1、ロングボール成功率0%。

その上で「ボールを持ちすぎて何度も奪われた」「急いでいるように見えた」と書いている。

根拠が数字である評価は、数字で検証できる。逆に言えば、印象で書かれた評価は、何をもって外れたとも言えない。

だから、この記事が扱えるのはMOT Leeds Newsのほうである。

数字は、ちょうど反転している

8月2日のリバプールとの親善試合で、田中碧はボックス内タッチ0、決定機創出0、ロングボール成功率0%だった。9月5日のブライトン戦では、ボックス内での決定的な場面が3、アシストが1、同じ媒体の採点が8だった。
左は「構想から外れつつある」と書いた記事が並べた数字。右は33日後、同じ媒体が同じ選手につけた数字である。45分と73分、親善試合とリーグ戦であり、同じ項目を並べたものではない。図は筆者作成。

ブライトン戦で、田中がボックスの中で決定的に関わった場面は3つある。

15分、右コーナーキックの流れからドミニク・キャルバート=ルーウィンのヘディングがGKに弾かれ、そのこぼれ球に詰めた。24分、アントン・シュタッハのコーナーキックにファーサイドで完全にフリーになり、地面に叩きつけたシュートがクロスバーを直撃した。51分、シュタッハのフリーキックに抜け出して左足で流し込み、これはオフサイドで取り消された。

8月2日の前半、彼はボックスの中に1度もボールを触っていない。

繰り返すが、45分と73分では出場時間が違い、親善試合とリーグ戦では相手も違う。同じ物差しで測った2つの数字ではない。それでも、「ボックスに関われない」という理由で書かれた記事の1か月後に、ボックスの中で3つの場面が生まれている。

ただし、彼が最高点を取ったのは「持てる試合」ではない

ここが、この試合のいちばん面白いところである。

現地のシーズンプレビューは、田中をこう位置づけていた。ポゼッションのコントロールを助ける、より技術的なオプション。ファルケが好むのはアンパドゥとシュタッハの守備的な組み合わせで、田中はそこに技術を足す枚数だ、という整理である。

その整理が正しければ、彼が効くのはボールを持てる試合のはずだ。

この試合、リーズの支配率は33%だった。

パスは成功159本、精度66%。試行はおよそ241本になる。ブライトンは成功411本、精度84%で、試行はおよそ489本である。倍以上撃ち合っていない。

つまり、「持てる選手」が、今季もっとも持てなかった90分に近い試合で、両チームを通じて最高の評価を受けた。

33%しか持たなかったのに、リーズのほうが撃っている

支配率だけを見て試合を読むと、この日のリーズは一方的に押し込まれたチームに見える。数字はそうなっていない。

ブライトンリーズ
支配率67%33%
シュート2010
枠内55
決定機23
xG1.792.76
デュエル勝利5157

枠内の本数は5対5で並んでいる。決定機はリーズのほうが多い。xGも1点近く上回っている。デュエルの勝利数さえリーズが上である。

ファルケは試合後にこう言った。「ハーフタイムの時点で、決めきって突き放しているべきだった」。

この試合でリーズが失ったのは、ボールではなく勝点2である。

3つの場面は、どれもセットプレーから始まっている

田中の3つの関与を、もう一度並べる。15分はコーナーキックのこぼれ球、24分はコーナーキック、51分はフリーキックだった。

リーズのコーナーキックは6本。そして、この試合の2つのゴールはどちらもコーナーキックから生まれている。71分、マキシム・デ・カイパーのコーナーにルカ・ヴシュコビッチがファーで合わせて同点になった。

支配率33%のチームが相手ボックスに入る経路として、セットプレーは理屈が通る。ただし、オープンプレーから彼がボックスに入った回数を、筆者は取れていない。だから「セットプレーでしか入れていない」とは書けない。

書けるのは、記録に残った3つの決定的な場面が、いずれも止まったボールから始まっていたということまでである。

初アシストの中身は、打ち損じだったかもしれない

15分の場面について、現地の書き方が割れている。

MOT Leeds Newsは「田中のアシストは、実際にはこのMFのシュートだったかもしれない」と書いた。ヨークシャー・イブニング・ポストはボーグルの講評として、「わずか1ヤードの距離から、田中の打ち損じたシュートを押し込む位置にいた」と書いている。

一方でリーズ公式は「横に流した」とし、スポニチは「左足でシュート性のクロスを入れた」と書いた。

狙って折り返したのか、打ち損じが結果的に味方に届いたのか、公開されている情報では確定できない。

ただし、その判定は彼の評価をほとんど動かさない。MOT Leeds Newsが8点の理由として挙げたのは、アシストではなく、こぼれ球を諦めずに追い続けたこと自体だった。「アシストが無かったとしても」と書いてあるのは、そういう意味である。

現地の採点は、日本語で読むより割れている

日本語のニュースを4本読むと、田中の採点は8点だったように見える。実際には、6点から8点まで割れている。

媒体点
MOT Leeds News8
lufcnews8
FotMob7.8
Leeds Live7
Yorkshire Evening Post6

BBCのファン投票では8.18で両チーム最高点となり、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれている。

そして、確認した日本語4媒体は、いずれもMOT Leeds Newsの8点とBBCのファン投票だけを引いていた。6点をつけた媒体があったことに触れた記事は、筆者が見た範囲では無い。

前回、鈴木彩艶の記事で「現地の採点は割れていない」と書いた。今回は割れている。割れているときにどこを引くかで、読者が受け取る像は変わる。

彼が押しのけたのは、シュタッハではない

序列の話をするなら、誰が外れたかを見ないと意味がない。

8月30日のブレントフォード戦、リーズの中盤はシュタッハ、アンパドゥ、ブレンダン・アーロンソンだった。田中はベンチで、後半頭から45分プレーしている。

ブライトン戦の中盤はシュタッハ、アンパドゥ、田中である。

つまり、シュタッハとアンパドゥは2試合とも先発している。田中が代わったのはアーロンソンで、競合とされてきたシュタッハではない。

そのシュタッハが、この試合でチーム最低の4点をつけられた。決定機を外している。ファルケは会見で、「前半はドミニクが、後半はアントンが試合を終わらせるべきだった」と名指ししている。

田中は3枚目として入り、隣の選手が4点を取った。

結論

8月3日に書かれた「構想外」は、間違いではなかった。あの45分の数字は実際に0が並んでおり、あの時点でファルケが彼を外していたのも事実である。

そして9月5日の8点も、間違いではない。

33日で、同じ選手についての同じ種類の数字が、ここまで動いた。

言えるのはそこまでである。プレシーズンの45分から翌シーズンの序列を読むことには、限界がある。それが今回の材料が示していることで、田中碧が定位置を取ったという話ではまだない。

ファルケは会見で田中について一言だけ触れた。「田中が試合を決めたと全員が感じた。だが線が引かれ、1インチのオフサイドだった」。

起用を続けるとは、言っていない。

何を見れば答えが出るか

前回と同じく、反証できる形で置いておく。

  1. 9月12日のニューカッスル戦で先発するか。MOT Leeds Newsは「そのポジションを継続するに値する」と書いた。ファルケは何も言っていない。ここが最初の答え合わせになる。
  2. 9月9日のカラバオ杯チェルシー戦で先発した場合、リーグでどうなるか。8月25日のフォレスト戦も、彼はカップで先発してリーグではベンチだった。同じ形が繰り返されるなら、それは「カップ要員」への差し戻しである。
  3. 支配率が上がった試合で、同じ評価が出るか。「持てる選手」という整理が正しければ、持てる試合でこそ効くはずである。この試合はその逆だった。
  4. プレミアでの2本目のアシストが、セットプレー以外から出るか。今回の3つの場面は、すべて止まったボールから始まっている。

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