冨安健洋の5.77は不振の証拠ではない。同じ試合でGKには5.4が付いている

マンチェスター・シティ戦の採点比較。FotMobの自動採点とBBCの記者採点で評価が逆を向く。ヘンダーソンは5.4から7へ、冨安は5.77から6へ上がるのに対し、鎌田は6.9から5へ下がる。
二つの採点は割れているのではなく、測っているものが違う。 数値は FotMob の公開値と BBC の記者採点。図は筆者作成

74分だった。オリバー・グラスナーの後を継いだピエール・サージュが、4人目の交代としてアクセル・ディサシを送り出す。2日前にチェルシーからローンで加入したばかりのセンターバックが、そのままデビューした。 代わりに退いたのが冨安健洋である。

セルハースト・パーク、1-4。移籍後2試合目にして初先発の日は、そうやって終わった。

翌朝、日本のスタッツサイトには5.77という数字が並んだ。チーム内で下から2番目である。

だが、同じ試合にもう一つの採点が付いている

BBCの記者採点は、こうだった。

Takehiro Tomiyasu: Solid as usual and will bring experience to the Palace ranks. 6 (いつもどおり堅実。パレスに経験をもたらすだろう)

6は、パレスの先発11人の中で真ん中である。 下ではない。

そして、この二つはただ数字が違うのではない。逆を向いている。

マンチェスター・シティ戦の採点比較。FotMobの自動採点とBBCの記者採点で評価が逆を向く。ヘンダーソンは5.4から7へ、冨安は5.77から6へ上がるのに対し、鎌田は6.9から5へ下がる。
線が上を向くほど、記者のほうが高く見ている。ヘンダーソンと鎌田は、二つの採点で完全に入れ替わる。数値は FotMob の公開値と BBC の記者採点、図は筆者作成。

ゴールキーパーを見ると、何が起きているか分かる

ディーン・ヘンダーソンの自動採点は5.4。冨安よりさらに低い。

だがBBCはこう書いている。

「シティの得点はどれも防ぎようがなかったが、序盤のアンダーソンからのセーブで質を示した。その後もセメンヨとチェルキから止めている。7」

4失点したGKに、記者は11人中の最高点を付けた。

逆の例もある。鎌田大地は自動採点6.9でチーム2位だが、BBCは5である。「いつもどおり忙しいが、影響を及ぼせなかった」。

つまり二つの採点は、評価が割れているのではない。測っているものが違う。

自動採点は失点や被シュートを最終ラインとGKに配分する。チームが1-4で負けた時点で、後ろの4人は自動的に沈む。 記者が見ているのは、その選手が実際に何をしたかである。

「シティ戦は悪かった」という言説は、前者の数字だけを見た結論だと筆者は考えている。

では、彼は実際に何をしたのか

74分でクリア5回、インターセプト3回、タックル1回。守備アクションは9回。

そして被ドリブル0、ファウル0。 一度も抜かれず、一度も倒していない。

パス成功率は87.0%(20/23)。開幕エバートン戦の18分では80.0%だったので、上がっている。ただしこの日のパレスは支配率28%、xGは0.57対1.74。 数字が伸びる試合ではない。

もう一つ、傍証がある。 Skyスポーツの試合記事は4つの失点を一つずつ描写しているが、そこで名前が出るのはクリス・リチャーズが3回で、冨安は一度も出てこない。 17分のハーランドのヘディングは「リチャーズの上を越えて」、59分のチェルキは「リチャーズに当たって」、84分は「リチャーズのパスをグエイが奪って」である。

冨安が咎められている記述は、現地の記事に見当たらない。

交代は、負傷だったのか

ここが割れている。

スポニチは「負傷交代」と報じた。 後半23分の空中戦の着地で左足を気にする様子があり、29分に交代した、と。ただし同じ記事が「ピッチサイドまで小走りを見せるなど、大事には至らなかったもよう」とも書いている。

一方、現地には負傷の記述が無い。

監督の発言は5人の交代全体についてのもので、冨安個人の説明ではない。それでも、負傷には触れていない。

マンチェスター・シティ戦でパレスの3バックを組んだ3人の比較。90分あたりのスプリント数はカンボ2.0回、リチャーズ3.0回、冨安2.4回。最高速度はカンボ30.2、リチャーズ27.5、冨安32.0km/hで冨安が最も速い。
同じ試合、同じ3バックなので条件が揃う。スプリント数は3人ともほぼ同じで、最高速度は冨安が一番速い。数値は FotMob の公開値、図は筆者作成。

走行データも、離脱を示していない。 90分あたりのスプリント数は冨安2.4回で、カンボ2.0回・リチャーズ3.0回とほぼ同じ。最高速度32.0km/hは、3バックの中で最も速い。

ただし、断りが要る。 最高速度がいつ記録されたかは公開データでは分からない。接触があったとされる68分より前かもしれない。 これは「走れていた証拠」ではなく、「走れなくなった証拠は無い」までの話である。

現時点で言えるのは、左足に違和感が出たらしいこと。そして離脱を裏づける材料は、日本語の一報以外に存在しないことである。

前回、筆者は逆のことを書いた

8月24日、この媒体は「冨安健洋に開いた扉は、もう塞がりかけている」という記事を出した。そこに置いた予測は、外れている。

「ディサシの加入が成立すれば序列は動かない」と書いた。 ディサシは8月26日に加入した。だが動いたのは冨安のほうで、彼が新戦力の前に立った。

リアドの診断も出た。FotMobは復帰見込みを2027年6月下旬としている。 クラブはまだ公式の診断を出しておらず専門医の判断を待っている段階なので確定ではないが、担架で運ばれ、過去に十字靭帯の負傷歴がある選手である。

扉は塞がっていない。開いたままになった。

何を見れば答えが出るか

① 9月5日のフラム戦、メンバーに入るか

負傷かどうかは、ここで確定する。 入れば「大事には至らなかった」が正しかったことになる。外れれば、日本語の一報のほうが正確だったことになる。

② 先発が続くか

ディサシは今季チェルシーで序列を落としてローンに出た選手である。冨安が2試合続けて前に立つなら、それは試合勘の話ではなく序列の話になる。

③ 押し込める試合でのパス成功率

支配率28%で87.0%だった。フラム相手なら条件は変わる。90%台に届くかどうかで、2年ぶりの実戦という要素がまだ残っているかが分かる。

このどれかが外れたとき、それが次の記事になる。


データについて