坂元達裕のプレミアデビューは31分。だがこの日のコヴェントリーは、持てるようになって決定機を減らしている

コヴェントリーの第1節アーセナル戦と第2節ハル戦の比較。支配率は36%から69%、成功パスは265本から490本、シュートは4本から11本に増えたが、ビッグチャンスの創出は1回から0回に減っている。
支配率もパスもシュートも倍近くに増えた。減ったのは決定機だけである。 数値は ESPN の公開値。図は筆者作成

59分だった。フランク・ランパードは右のウイングを入れ替える。退いたのはルーム・チャウナ、£20mで加入した22歳である。入ったのが坂元達裕だった。

コヴェントリー・ビルディング・ソサエティ・アリーナ、観客31,239人。0-0の均衡は82分に破れ、コヴェントリーは昇格組同士の一戦を0-1で落としている。29歳のプレミアリーグ初出場は、31分、シュート1本、ゴールもアシストも無しという記録で終わった。

そして翌朝、日本と現地では違うことが書かれた。

日本は「躍動」と書き、現地は失点の場面で彼の名を出した

サッカーダイジェストWebはこう書いている。「右サイドで攻撃のリズムを作り出し、次々にチャンスに絡む。70分にえぐって上げた鋭いクロスは、惜しくもチームメイトに合わない」。

ゲキサカも「カットインや縦突破で積極的にドリブルを披露」「キレのある仕掛け」と評した。日本語で読めるかぎり、デビュー戦は成功だったことになる。

現地は同じ31分から、別の場面を切り出した。82分の失点について、コヴェントリー・ライブはこう書いている。

Although Tatsu Sakamoto was close to the midfielder, he failed to do everything in his powers to stop him playing the killer pass. (坂元はそのMFのすぐ近くにいたが、決定的なパスを止めるために全力を尽くしたとは言えなかった)

そしてゲキサカも、同じ場面を「ハルのMFが坂元に競り勝ってボールを収め」と描写している。 見ているものは一致していて、そこに置く価値だけが違う。

どちらも事実である。ただし、どちらも坂元個人の話をしている。この日いちばん大きく動いたのは、個人ではなかった。

この日のコヴェントリーは、ボールを持てていた

数字を並べる。

支配率69%。成功パス490本、成功率86%。シュート11本、コーナー6本。

8日前のアーセナル戦は、支配率36%、成功パス265本で79%、シュート4本、コーナー2本だった。 ほぼすべてが倍に近い。

筆者は前回、この媒体でこう書いた。 8月26日の記事(坂元達裕は前を行く22歳の2.6倍決定機を作る)である。

ボックス内タッチが1試合3回のチームで、創出の巧さは出番を持たない。必要とされるのは、クリアと走行距離だ

つまり「材料が無いから作れない」という見立てだった。 ハル戦は、その材料が戻ってきた試合である。

増えなかったのは、決定機だけだった

コヴェントリーの第1節アーセナル戦と第2節ハル戦の比較。支配率は36%から69%、成功パスは265本から490本、シュートは4本から11本に増えたが、ビッグチャンスの創出は1回から0回に減っている。
支配率は33ポイント上がり、決定機は1つ減った。数値は ESPN の公開値、図は筆者作成。

アーセナル戦のコヴェントリーは、ビッグチャンスを1回作っている。ハル戦は0回である。

増えなかったのではない。減っている。

xGは0.28から1.28へ増えた。ただしその1.28のうち0.94は、タイウォ・アウォニイ1人のものである。 残る7本のシュートが積み上げたのは0.34、1本あたり0.05でしかない。

ボールは持てた。崩せていない。

ランパードは、その理由を自分から言っている

試合後の会見で、ランパードはこう話した。

We didn’t create enough chances… We allowed it so you get punished. (十分にチャンスを作れなかった。こちらが許したから、罰を受けた)

コヴェントリー・ライブの試合分析は、もう一歩踏み込んでいる。ハルは大型のセンターバック3人を含む5バックで引き、飛んでくるクロスを跳ね返し続けた。 そして同紙によれば、ランパードは自分たちがその形に付き合ってしまったことを認めている。

つまりこの試合は、サイドからクロスを上げるほど、相手の望む展開になる試合だった。

坂元がやったのは、まさにその仕事である

現地の記述に戻る。コヴェントリー・ライブは、坂元の投入で右サイドに新たな脅威が生まれたと書き、彼がサイドを使ってボックスにボールを入れ、チームが続けて2本のコーナーを得たと記録している。

日本側の記述はこうだった。「70分にえぐって上げた鋭いクロス」。

両方の媒体が、同じことを褒めている。えぐって、クロスを上げた、と。 そして監督は、この試合でクロスを上げ続けたことを反省点に挙げている。

坂元は悪いことをしていない。得意なことをした。それがこの日、いちばん効かない手段だった。

触った量は、交代した相手と変わらない

「入って流れが変わった」という読みも成り立つだろうか。接触の量で見るかぎり、その材料は無い。

坂元は31分で17タッチ。チャウナは59分で32タッチ。 90分あたりに直すと49.4回と48.8回になる。ほぼ同じである。

シュートは両者1本ずつ。xGは坂元が0.00、チャウナが0.05。 攻撃の記録で差は付いていない。

差が出たのは守備側だった。守備介入はチャウナ6回に対し、坂元1回。 90分あたりでは9.2回と2.9回になる。

現地が失点の場面で坂元の名を出したのは、この落差の延長にある。 ただし1回と6回の差を31分の標本で語るのは、無理がある。

それでも、言説の側に残る材料

31分は短い。 リーグ戦で彼を評価するには足りない。

押し込めていた時間そのものは、あった。 コヴェントリー・ライブは、坂元の投入後にチームの圧力が続いた時間帯があったと書いている。

70分のクロスは、味方に合わなかっただけである。 合っていれば記録も評価も変わる。クロスの質を1本で判定することはできない。

そしてビッグチャンス0は、坂元だけの結果ではない。 59分ずつプレーしたチャウナもメイソン=クラークも、同じく先発したジャック・ルドーニも、同じ0の中にいる。

これは、前回の見立ての訂正である

前回、筆者は「彼の得意な仕事の材料そのものが減っている」と書いた。材料が戻れば話が変わる、という含みを残していた。

ハル戦で材料は戻った。話は変わらなかった。

問題は支配率ではない。引いた5バックを崩す手段が、今のコヴェントリーに無いことのほうである。

ここからは筆者の見立てになる。 その手段が「サイドをえぐってクロス」であるかぎり、坂元が一番手になっても、答えは同じ側に着地する。 彼がリーグ戦で先発を取り戻すとしたら、それは彼の出来が上がったときではなく、チームが崩し方を変えたときだと筆者は考えている。

何を見れば答えが出るか

① 9月5日のマンチェスター・シティ戦で使われるか

アウェイである。支配率は再びアーセナル戦の水準に戻る。 そこで坂元が投入されるなら、ランパードは彼を「持てない試合の駒」としても見ていることになる。前回の見立てとは逆の答えになる。

② 9月13日のブライトン戦で、チームのビッグチャンス創出が0を脱するか

ホームで、相手には三笘薫がいる。再びボールを持てる可能性が高い試合である。 ここでも0なら、支配率の問題ではないことが確定する。

③ 12月までにリーグ戦の先発が3試合に届くか

前回からの継続である。第2節終了時点で先発0、出場は31分。

このどれかが外れたとき、それが次の記事になる。


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